第46回講演(4/5ページ)
<日本経済の低迷の謎を探る>
もう一つ「日本経済の低迷」の問題です。
現在の日本経済の低迷状態をどのように考えたら良いかという論文のようなものを書きました。
これは内需期待から供給重視ということでして、結局のところ言いたいことは何か。現在の閉そく的な状況を打破するには、発想の転換が必要だろうということで、どんな発想の転換が必要かは、やはり基本的には供給能力です。これを重視した経済政策をどんどん打ち出すべきだということです。
具体的には、例えば減税は絶対必要だということです。それから、現在高速道路の料金を引き下げる動きがありますけれども、あのようなことはいち早くしなくてはいけないことです。生産活動をし、供給活動をする時の阻害要因をどんどん省いて、ほんとうに力のある経済を作っていかなくていはいけないという考え方です。
従来であれば内需重視型なのです。ケインズ経済学という、我々のやっていることがそうですが、有効需要を何とか確保しなくてはいけないという考え方で、需要頼みの経済運営がずっと行なわれています。そして、いつまでたっても内需が拡大しない。こういうことですから、閉そく感が強まるばかりになるのです。
そうではなくて、もっと外に目を向けて、経済の実力をつけることが先決で、それが最終的には有効需要を生み出すのだと考えています。
一昔前、10年くらい前ですが、アメリカではサプライサイド(供給側)エコノミクス、こういう考え方が出ていました。レーガン政権のもとで実際に色々な政策が運用されたわけです。もちろん、理論的にも色々難しい問題がありましたけれども、また、すべてが成功したわけではありません。少なくともアメリカの経済の活性化の足がかりにはなった考え方です。
日本でも内需に頼らずに経済の産業活動の力をつけていくことが先決だという、発想の転換が必要です。そのためには、政策議論も、現在総裁選で色々議論されていますが、どうもみなさんお話されるのは短期的なお話で、長期的なビジョンは少しも出てこない。さしあたって「消費税どうしたら良いか」とか「財政の赤字をどうしたら良いのか」といったことばかりです。日本経済を長期にわたって力強い産業活動が支える経済にしたいんだという話が全然出てきません。出てくるのは大体産業活動の短期的な補助、中小企業へ対する補助金の拡充であるとか、そういったことであり、長期的なものではないのです。私は、そういった立場から、経済全体を見直す必要がある、経済政策そのものを見直す必要があると思います。
ただ一つだけお話しておかなければいけないのは、内需というのは基本的には、つまりみんながお金を使いたがっていれば景気が良くなるという話です。ケインズはそういった逆転の発想をしたわけで、残念ながらこの逆転の発想が現在は教科書の大部分を占めています。ケインズ経済学と言います。不思議な世界です。ですから、誰もお金を使わなければ政府がお金を使えば良いと、公共政策を提案するわけです。非常に歪んだ経済学が、私に言わせれば流行っているというわけです。
もちろん、それも真実ですけれども、しかし大事な点も抜かしていることは明らかで、例えば投資活動がそうです。企業は投資する気持ちになりません。それを大まかな言い方をすれば、投資環境と言っていいと思います。投資環境があまり良くないので投資しないわけです。
それから消費もそうです。消費をするためにはどうしてもお金が必要です。このお金が入ってこない。専門用語で労働分配率と言いますが、労働分配率が全然上がらない。これは見事なもので、今までの10年前くらいの話ですと、経済成長すると、つまりGNPが上がると必ず労働者の取り分が増えてくる。ところが、この数年はむしろ経済成長して少し景気が良くなっているにもかかわらず、労働者の取り分がどんどん下がっている。ですから、給料などの実質賃金が伸びない。経済成長は大体2%とか、3%増えるのですが、労働者の取り分が少ない。そういうところで消費は増えるはずがないのです。
これには色々理由があります。労働経済学の先生に聞きますと、「小林先生、それは10個くらい理由があります」と言いますが、そんな10個なんか考えている暇はありません。これは大体わかっています。企業はリストラをしました。してはいけない労働者のくびを平気で切った。定年で辞めて、あとはアルバイトあるいはパートタイマーでとるということです。非正規労働者です。アルバイトやパートタイマーが経済全体で実質賃金率を下げていることは間違いない。
まだまだ他にもあります。例えば外国からの労働者。安い賃金で働きますから、経済全体としては賃金のウェイトが下がってくる。それから国際的に活躍している企業なども、中国あたりで安い労働力で働くと、結局巡り巡って日本の労働分配率が下がるということが数字でわかってきます。
このような状態ですから、需要が経済を活性化するなんて期待できないわけです。私は全体的に供給局面に力を注ぎ、減税をどんどんするとか、もちろん財政の問題もありますが、そういう意味ではいわゆる上げ潮学派。経済を活性化し、経済成長すれば税収が膨らむ。税収が膨らめば財政の赤字は少なくなる。単純に言えばそういうことです。
アメリカではかなり成功しましたが、日本では成功するかどうかわかりません。日本では自民党の中川さんが言っていますが、一里はあるわけで、そこまで言わないまでも経済の活性化がどうしても必要だということ、これは事実です。
こうして論文は長期的に日本経済を見ていこう、そのためには産業活動を強力にしていかなければいけない。もちろんそのための技術革新であるとか、中小企業への補助とかが大変大事になってくるわけです。全体として、供給能力を重視した経済政策が必要だということになります。
以上で国際的な金融危機と国内の経済の低迷の状態を私なりに簡単に把握してみました。
第46回講演(5ページへつづく)
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