第46回講演(3/5ページ)

 この状況は、お聞きになったことがあるかも知れませんけれど、アメリカでもエンロンという会社で大事件がありました。エンロンは私もよくわかりません。最初は、学生には電力会社だと話をしていたのですが、良く調べてみるととんでもなくて、元々はガス会社だったのです。そして電力をやり、その他色々エネルギー関係、石油関係とか手を広げていったのですが、この類のものが全部証券化されている。ですから、エンロンは電力会社でありながら発電所を持っていない。「何キロワットの発電をするのだけれども、それに対して投資をして欲しい」ちなみに「この投資がうまくいけばどのくらいの利益が上がるので、このくらい儲かりますよ」として契約する。電力が何処にあるかわからない。そういう仕事をしていた。しかも、たくさんの人の手を経ながら動いていますからわけがわからない。大体、エンロンという会社がわからない。
 いつかここでお話した時に、不況の時にどうしたら良いかという話だったのですが、私少し反省しています。他の人がわからない仕事のほうが儲かるのだというお話をしました。反省しています。エンロンは本当にわからない。エンロンのそういう仕事は、基本的にはわかりませんので、逆に言うと不正な会計システムを導入してもわからないわけです。粉飾決算をしてもわからない。
 カラ売りと言って、金融デリバティブです。話は電力なのですが、取引になると何だかわからないまま証券業務、あるいは債券業務になります。そうして、取引が行なわれたとしてしまう。そうすると売り手と買い手が出てきます。そして、通常は自分でやるのですが多くの場合、その取引について手数料をとる。証券会社の場合、手数料で食べているわけです。カラ売りとかの類のことです。
 そういうことを平気でやって、エンロンはどんどん取引を増やしていって、あっと言う間にアメリカで10位とか8位とか7位とか、数年間のうちに巨大な企業になってきます。ハーバードビジネススクールなど、何処でも大成功の会社として教科書にも採用される。その教科書には何をやっているかわからないというのが成功の秘訣だと。難しい言葉で言うとそれをビジネスモデルと言います。ですから、わけのわからないビジネスモデルを開発すれば儲かる。
 セブンイレブンは自分のところでトラック1台も持っていない。みんな借りているのです。コンピュータシステムも野村総合研究所から借りている。何もないのです。人の褌で相撲を取っているのがフランチャイズビジネスです。コンビニエンスストアのシステムです。
 だから、そういうシステムをみんなに認めてもらうのに時間がかかったと思うのですが、一度認めてもらうと黙っていてもお金が入ってくるビジネスです。いかがわしいと言うと語弊がありますが、わけのわからないことをやっていると儲かるのです。エンロンはまさにそのことです。しかも、幸か不幸か、アーサー・ヤングというアメリカ屈指の、ほとんど1、2を争うしっかりした会計事務所が監査を担当していましたから、どんなことがあったって大丈夫だと思う。株もどんどん上がる。しかし、粉飾決算が発覚すると同時に大変なことになりました。これは、バブルの崩壊と同じです。何でもそういう結末が出てくるものです。
 こうして、今回のリーマン・ブラザーズの問題も、アメリカ全体の金融危機の問題もやはり大変複雑なシステムを生み出してしまった。ちょっと普通では考えられないビジネスモデルが開発されている。いったん開発されたビジネスモデルは、どんどんお金を生み出しますので成功してきました。もちろん、失敗した人もいます、事実がわかって・・・。
 バブルは崩壊するからバブルです。崩壊しないとずっとバブルなのでしょうけれども、それはバブルではないわけです。大変な事態になったのです。
 こういった事態が、難しい言葉で言えば金融危機の構造的な問題と言ってもいいでしょう。それは、もっと難しい言い方をすれば資本主義独自の、資本主義がどうしても拭い去ることができない構造的な問題点。つまり、ものに需要と供給の関係で値段がつき、その値段がその品物の価値のすべてです。
 そして競争が行なわれ、競争に勝ったものが利潤を得、豊かさを共有するという、資本主義の鉄則です。良いとか悪いとか別として、これが事実です。こういう厳しい競争の世界と仲良くしなくてはいけない。
 いつか、この望星倶楽部で小泉内閣の構造改革のお話(第25回講師交流会:2003年9月17日)をしまして、私は小泉さんのやり方に賛成であるとお話いたしました。色々問題はありましたけれども、基本的にはそういった激しい競争の中でやっていくということに、肯定的な答えを出し、もし問題があればそれを変えていく、なくしていくという考え方です。あとでそれは触れますけれども、その基本的な意識は当然のことながら自助努力と言って、政府に頼らず自分たちで頑張るということです。そういうお話をかつてしたことがありますが、不動産の証券化の問題も含めて、かなりそういう意味では金融経済のウェイトが非常に高くなってきていると思います。
 もう一つ、オイルマネーの存在があります。オイルマネーの存在は、これは一国の経済を動かすくらいの大変大きな比率を持っていますけれど、経済の動きに基づいて、利潤を生む部分についてはすぐ資金が移動していくということでして、現在ではドバイあたりをターゲットにして、非常に規模の大きな投機筋が動いているということになっています。
 いずれにしても、とんでもない時代になったということです。もっとお話しなければいけないことがたくさんありましたけれども、いずれにしても、この金融危機の問題はそういう背景がありまして、これをすぐ何とかしようというのはほとんど不可能です。ですから、悪いところを直していくということしか考えられないわけです。
 大変残念ですれども、もしそのような動きを全面的に止めるということであれば、あまりにも大きな犠牲を払わなくてはいけないことが考えられます。実際にその動きはありますが、何かそのようなブレーキがひかれることは期待してよろしいわけで、今回はリーマン・ブラザーズが経営破たんして基本的にはアメリカ政府はほっておきました。納税者の利益を考えると、リーマン・ブラザーズの関係で儲けた人もいるわけですから、やたらに税金を使って助ける必要はないわけです。ところがAIGの場合は、これは救済する。救済と言っても80%の株の権利をとるということです。事実上国有化に近いわけです。そうしなければ、世界経済がうまくいかないということです。
 日本政府がそのようにしたかどうかわかりませんが、よく言われることは迅速さです。危機に応じて政府がどのように対応するかですが、アメリカの場合は大変迅速な対応が行なわれたということです。
 いずれにしても、資本主義の大変厳しい状況を座して見ているわけではありませんが、しかし、悪いところを直すという考え方のほうが犠牲が少ない。しかもそれに期待できる。私はそのような点では楽観的な考え方を持っています。
 実際のところ今日の新聞でしたが、世界の5つの中央銀行がこのアメリカ政府に加担して約18兆4千億という、大変な額のお金を用意した。用意したと言うよりも、大変面倒くさいやり方があって、特に銀行がお金が欲しいと言うと、担保をきちんと取って、それについて評価して、そしてドルで貸しつけるとか、ややこしい問題がありますから、急にはその成果が出てきませんけれども、しかしそのアナウンス効果は大変な効果を持っています。それから、そのうち日本の中央銀行である日本銀行は600億ドル、約7兆円お金を出すということです。
 というように、何かあった時に世界の先進国の中央銀行をはじめとしてお互いに協力し合う体制が整っていることが我々を楽観的にさせるということです。
 日本は初めてドルでの供給をするのだそうですが、某大臣が言ったハチの一刺し、その程度になるのかもわかりません。しかし、そういう意味では大変楽観していい要素はあります。

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