第46回講演(2/5ページ)

<金融危機構造を考える>

 当面、ここ数日の金融危機の問題です。これはお話するまでもありませんけれども、私としてはここにある3つの点を考えなくてはいけないと思っています。
 大変な経済的なインパクトがありまして、どのような事態になるかは予断を許しません。特に、これから年末にかけて資金需要が高まる中で世界的な金融危機が発生していて、恐らくは全く予想がつかないことになるかも知れないと思っています。その辺は専門家の間でも意見が分かれていまして、楽観論もあれば悲観論もあるということです。私は、サブプライムローンは5、6年かかるのではないと思っていますけれども、今回のこの事態がかなり鋭角的に出てきていることでは10年くらいはもしかしたら世界経済がうまくいかないという気がしています。
 もちろん、楽観論はたくさんありますけれども。特に楽観論の中には某大臣(与謝野馨)が言っているように、今回の事件は「ハチに刺された程度だ」として、「日本経済は全然心配いらないんだ」と言っています。どうしてそういう答えが出てくるのかわかりませんけれども、ハチに刺されると痛いですし、死んでしまうこともありますから、そういう風に考えたほうが良いかと思います。大変な事態です。
 まず第一に金融局面。お金の流れが我々の育った時期に比べると、とてつもなく規模が大きくなっています。ちょっとしたお金の動きがありますと、ちょっとした後進国、発展途上国のGNPに匹敵するお金があっという間に動く時代がこの10数年続いています。とてもじゃあないけれども、お金の動きをコントロールするまでいかないのが、まず第一点です。
 これは何が大事かと言うと、例えば不動産の証券化などを考えると、それは典型的に表れてきます。不動産は大体、不動産を見てそれがお金を生みそうな物件であるとか、土地であるとかを見て、需要と供給を考えながら値段がついて取引されるわけです。この不動産の証券化については物件を見ないで、紙切れ一枚で取引をします。これは、会計学の先生から言わせるとキャッシュフローと言いまして、お金の動きを上手に利用して資産を生むことを考えると、どうしたって「怪しげな不動産」とか「役に立たない不動産」は早く売ってしまったほうが良い。そういったかたちで、紙切れにしてそれを取引するということです。
 古くは、オランダのチューリップのバブルがそうです。最初はチューリップの球根を取引していたのですが、そのうちに球根ではなくて紙切れになり、その紙切れには何キログラムのチューリップの球根と書いてあり、その紙切れが動くようになってチューリップのバブルが発生したわけです。それとまさしく同じように、現在、何でもそういうかたちでお金になるものにしていく。それさえできれば、そこに取引が発生することで、恐ろしい局面になっていくというわけです。
 チューリップのバブルはその後ヒヤシンスのバブルを生んだということですから、大変なことです。それと同じように今回は証券化をはじめとするかたちで、お金の動きがとんでもない動き方をしているのです。
 二番目は、そういったお金の動き方ですから、わけがわからない。
 私も実は、証券会社の方とお話をしたことがあります。これは専門家でもわからない。専門用語では「デリバティブ」と言いまして、金融派生商品と言います。
 オーストラリアの水力発電の会社が水力発電を起こす発電機が欲しい。その発電機をスイスの銀行から融資してもらいたい。そして、日本の下町のおじさんにお金を出してもらってスイスの銀行へ入れていただいて、スイスの銀行からオーストラリアの水力発電、火力発電のタービンに使ってもらう。日本の銀行であれ、証券会社であれ、それを企画するわけです。これをもっと複雑にしますと、さらに第3者、第4者、総合商社も入ってくるでしょうし、それからスイスあたりではもしかしたら保険会社も入ってくるかも知れません。5人も6人も人の手を経ながら、ようやくオーストラリアの電力会社が長年考えていた発電機を手に入れる。しかもそれはリースですから。リースになりますと保険が入ってきます。
 我々が、自動車を借りる時に必ず保険に入るのと同じで、保険制度が必要になってきます。少なくても5、6人の手を経れば、5、6人の保険が必要になってきます。どういう人、どういう企業、どういう流れでお金が動いているのか。つまり、デリバティブ、金融派生商品と呼ばれるものが、専門家でもわからない。わからなければコントロールできません。現在のところそういう状況です。

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