第45回講演(5/6ページ)
<知的財産教育−持続可能な社会構築へ向けて−>
それでも、我々は環境問題、公害問題を乗り越えて、色々な科学技術を生かしてきました。日本はエネルギーもありません、天然資源もありません、あるのは科学技術で、それによって色々なものを作り、社会を作ってきました。
とくに、高品質を維持して工業製品を実現し、キャッチアップ型産業で模倣して、改良して、商品化してきました。画一的で、知識重視型の教育、出る杭は打たれながら、非常に品質の高いエンジニアがたくさん出てきて社会ができました。
ところが、このような世の中が今どんどん変わろうとしていると思います。知識創造社会、国際化社会、高い付加価値、フロンティア型産業、創造性教育。
話が飛ぶようですが、環境問題を考えていると次の時代はどのようになるのかと考えるわけです。本当に地球温暖化していくのか、あるいは環境教育をやっていても自然に触れるだけでいいのかということです。自然と共生することは非常に大事なことですが、社会システム、経済状態はどうするのだということにも気が向いてきます。
例えば、神戸で震災がありました。私の家内が神戸出身で、地震があった後すぐに行ったのですが、多くの家が崩れていて、アスベストを含んだような埃が大気中にたくさん舞っていました。し尿、汚泥物いっぱい出ているのですが、それでも人々は食べること、休むところの確保が優先事項でした。人間の生活は、一定のレベルに達しないと環境のことなんか考えられないのです。そういった意味では自然界を維持していくことは大事なのですが、それに加えて一定の経済システムをどうやって持続可能にしていくかということも大事だと思います。
そのようなことから、知的財産もこれから重要なひとつのファクターかと考えており、今東海大学でそのための教育の在り方を求めて研究を進めている次第です。知的財産の重要性ですが、知的財産というのは一定の期間、ある人が努力をすれば、その努力に報いるために「一定の期間それを独占してもよい」、その後は「社会共有の財産」となるもので、特許もこれにあたります。特許は実用へ生かすことが求められています。独占する権利を主張するのか、放棄するのかはその人の自由です。一定の期間が経過したところで、それは社会の財産になるというものです。
このようなところが知的財産の本質なのですが、今、日本では創造、保護、活用ということがいわれていて、これが順に回っていくと、形のないものをうまく活用して世の中をより発展させることができるといわれています。
今、東海大学は、知財教育を通じて東海大学の建学の精神に基づき、創造性豊かで平和な社会の構築に貢献することのできるヒューマニズムを身に付けた人材を育成することを目的とした教育を展開しています。ある大学では、知財教育というのは、「知財戦争のための武器をあなたに授けます」とか「知財戦争のための兵士を育成します」などを売りにしていますが、東海大学はそのような大学ではありません。
東海大学はこの知財教育というものが世の中を豊かにしていくためのものであるということを前提にして進めています。
ひとつは創造性教育としての知財教育。二番目に制度理解を求める知財教育で、もちろん制度を知っていないといけませんが、逆に今高校生に現状の制度を教えていきますと「先生、ここ問題があるよ。こんな制度ではだめだよ。」と言ってくる高校生が何人もいます。彼らが自分たちの将来を考えていくという教育を行っているということです。
そして、起業家精神教育としての知財教育。起業家精神というのは挑戦する意欲であって、そのような心を持つ人材を育むことです。教育の最大の義務でもあるといわれる場合があります。
このようなことを中心に掲げて、その具体的な展開に挑戦しています。環境教育は30年から40年の歴史がありますが、この環境教育も変わってきています。最初のうちは自然環境に触れ、それを保護・保全していくための活動が中心だったのですが、持続可能な社会の創造に主体的に参加できる人を育成すること、そしてさらに広い分野へと広がってきています。
当然エネルギーのことも考えられなければいけません。資源の利用のこと、あるいはリサイクルしていかなければいけない現状を踏まえて、どうやって我々の社会を持続可能なものにしていくのか、まさにエネルギー、環境、あるいは資源の利用のところでの要素がかかわってくるのですが、同時に知財というものは、形のない財産・付加価値でもあります。資源とかエネルギーに依存しない付加価値をもたらすことができます。そのような意味では、環境にも優しく、そして経済を発展させていく原動力にもなっていくだろうということなのです。
環境教育の一つの方法は、関心、知識、態度、技能、参加といったように段階的肉声していく方法があります。このように、徐々に人を変えていくという方法がありますが、これを参考にして持続可能な社会のために、経済とか科学技術システム、エネルギーの問題、あるいは鉱物資源の問題、あるいは科学技術をどのように我々の社会に生かしていくか、そのための知恵をたくさん出していける、そして自ら果敢に挑戦する人材を育成することに取り組んでいきたいと考えています。
今考えるべき資源循環型社会を目指していかなければなりません。エネルギーが必要です。持続可能な発展を実現するために、全ての場面における環境を意識した“思い込みによらない”マネジメント、地球は絶対に温暖化するんだということが本当にどうなのかということを客観的にデータに基づいて意識していくということ、定量的な数値に基づいたマネジメントが必要です。また、大事なことは大局的なモノの見方の大切さ、本質から考えていくということが発想の転換となっていくのではないかと思います。
<まとめ>
エネルギーの問題、エコマテリアルの概念と鉱物資源の消費の問題、それに科学技術のことを含めまして絡めてみました。
我々が求めなければいけないのは、持続可能な発展を実現する社会であると思います。そこに向けてもっともっと発想豊かな人材を育成していかなければいけませんし、経済だけを考えてもだめで、自然環境も考えなければだめです。環境問題も色々な側面から考えなくてはいけません。
経済システムの在り方も含め、人々がお互いに共生していく社会をどうやって作っていくのかということを、知的財産をキーワードとして考えていくということを我々は考えていかなければいけないと思っています。
少しでも参考になれば幸いです。
ご静聴ありがとうございます。
−了−
第45回講演(6ページへつづく)
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