第45回講演(4/6ページ)
<エコマテリアル>
20世紀後半の鉱物資源の消費量の伸び率は、エネルギーとほぼ同じ伸びで増えており、1950年、60年くらいから、アルミ、銅、ニッケル、鉛、すず、亜鉛の消費量が増えています。鉱物資源の生産量については、山に行って鉱石をとってきてそれから生成した金属を使うということですが、昨年2月に独立行政法人、物質・材料研究機構の原田さんという方が出されたデータから、一人当たりのGDP、経済活動と一人当たりの金属の消費量を比べると、色々な元素で様々な消費パターンがあることがわかってきています。経済発展に伴って鉱物資源の消費量が単純に増えていくシリコンのようなものもあれば、ある程度のところまで急激に伸びていってさらに経済発展していく場合、それほど消費しなくなる鉄などもあります。それから、銅、すず、鉛、亜鉛、いわゆるレアメタルについては、最初は増えますがある程度以上の経済発展では消費量はあまり増えたりしません。しかし、希土類、磁性材料とか発色材料、リチウム、インジウムなどは、突然今までのカーブと違ったカーブで伸びていくもので、新しい技術の出現に伴って急に伸びてくるものもあります。
このようなデータから自然界にある元素、現在見つかっている埋蔵量と世界の2050年にかけての需要について比較がなされています。
例えば鉛ですと現在の6倍くらいまで必要だろうといわれています。銀は現在の埋蔵量に対して103倍くらいの消費量が必要となってくるだろうといわれています。インジウムですと72倍です。
これを究極の埋蔵量と採掘可能量、これまでに採掘されたものを比較すると、2050年には、地上から到達できるところから採掘される元素は使い切ってしまうだろうというものが鉄、モリブデン、タングステン、コバルト、白金、鉛、パラジウムです。また、それ以上、倍以上必要となるものが、ニッケル、マンガン、リチウム、インジウム、ガリウムです。そして、どうしようもなく不足してしまうのが、銅、鉛、亜鉛、金、銀、すずです。
昔、銅は鉱石1トンを掘ってくると5kgくらい金属の銅が入っていましたが、今は500gも入っていないというのが現状です。インジウムの鉱石は岩で掘ってくるよりも、ここにある携帯電話の液晶画面の透明電極に使われているインジウムのほうが、よっぽど全体として多く含まれているというような話がありますが、そのような現状が資源のおかれている状況でもあります。材料資源の確保の視点からもリサイクルは必須になりつつあります。
我々の日常の生活環境で豊かさを考えると、世の中の変化は生活環境を大きく変えていき、これにより価値観も変わっていきます。現代文明論でよく触れるテーマでありますが、心理、教育、宗教、文化、伝統、あるいは地球環境とか社会システム、経済システムによって環境というものが決まってきます。そこでは科学技術が大きな役割を担っています。
たとえば、科学技術に依存する産業、すなわち情報産業、エネルギー産業、医療、バイオテクノロジーとありますが、こういった新しい科学技術を支えているのが、金属の素材、あるいは材料というものなのです。新しい素材が見つかるとそれに基づく新しい科学技術が誕生して、そしてそれが世の中を大きく変えていくことが多くあります。たとえば、情報産業であれば半導体材料であるとか配線材材料、エネルギーであれば原子力耐熱材料ですとか様々なエネルギー変換材料があります。医療、バイオテクノロジーでも、いわゆる材料科学に基づくテクノロジーがあって初めて成り立つ産業だということがいえます。
一つの例として強力な磁石を考えてみます。同じ大きさで比較していくと弱い磁石から強い磁石まであります。技術イノベーションは、石油が消費エネルギーカーブ、あるいは鉱物資源エネルギーカーブとほぼ似通った発展をしており、1960年代、70年代に一気に性能が伸びていったのが磁性材料です。日本はリーディングカントリーで日本人の技術者によっていろいろなものが見つかっています。
例えば、モーターが電流を流して、磁場を作って周りの磁石との反発作用で回る、同じ力を出すのに磁石が強ければその分堆積が少なくてすむので、大きい磁石が小さくなります。あるいは周りの磁場が強いと、コイルに流す電流が少なくてすむことになります。そうすると、より小型のモーターで、消費電力が少ないものが出てきます。それによって誕生したモーターを利用したのがソニーのウォークマンです。ウォークマンがでてきますと、それをもって走るマラソンランナーが出てきて、新しいライフスタイルを作り上げていきました。
我々は鉱物資源を使って何か工業製品を作るとき、つい次のように考えてしまいます。例えばコーヒーポットを考えるとヒーターが必要ですが、センサーをつけておかないと一定の温度を保てません。センサーによってスイッチがON、OFFするようなものをつけておいて、電源に接続しておきます。ここには、ヒーター材料、センサー材料、スイッチの材料、配線が増えていくわけです。
このようなやり方でやってきたものが今までの我々の資源の消費にもとづく科学技術の進歩だったといえます。そこで出てきた考えは、90年代のインテリジェント材料というもので、温度と共に発熱体の抵抗が下がっていく材料の利用です。この場合、温度が上がると抵抗が減って電流はもっと流れていってしまします。一方では、温度が上がると抵抗が増えていって電流が流れなくなります。これを使えばヒーター回路が単純になるのです。ヒーターがあって、あとは電源をつないでおくだけで温度が上がっていくと自然に抵抗が増えていって電流が流れなくなる。そうすると、常に一定の温度がキープできるだろう。そうしたら、こういった材料をうまく使えばヒーターだけでできるということなのです。このヒーター材料というのは、前のヒーターに比べると知能を持っている、自己制御しているじゃないかということなのです。リサイクルもしやすく、選択する元素によっては環境負荷が少なくなるかもしれません。
このような考え方でできたのがインテリジェント材料ですが、それをさらに特化させたのが「エコマテリアル」といった概念です。材料の科学技術への寄与を考えた場合、今まで不可能を可能にすることばかりを追求してきました。
例えば、鉄板のサビを防止するためには重金属を含んだメッキを使い、あるいは充電できる電池を作るためにはカドミウム電極を使うとか、あるいは電気の接点には水銀を使うとか、それを利用する人間や自然環境のことは考えませんでした。それによって色々なものを組み合わせ、色々なものが可能となりました。まさに、フロンティア性ばかりを追い求めていったというのが従来の流れです。
そこで、環境にやさしい視点を材料の視点からもっていかないといけない、環境調和性を持たせた材料をこれからも意識していかなければいけない、それを使う人間へのやさしさ、アメニティ性というものも考えましょうということで、これら3つのベクトルの合成ベクトルの思想からの概念で特徴付けられたものをエコマテリアルと呼んでいます。1990年代に入ってこのような動きが出てきました。
これをさらにもう一歩発展させると、エコマテリアル、材料というのは色々な産業を支えていて、科学技術を支えていますので、科学技術が世の中を支えているということを考えれば、例えばエネルギー、環境問題を解決する科学技術のあり方を考える場合も同様に考えていくことが可能となります。
科学技術というのは従来、不可能を可能にするフロンティア性ばかりを追い求めてきましたが、それではだめで、これからの科学技術は、エネルギーも含めて環境にやさしい視点でそのあり方を考えなければいけない、人間への優しさを含めて科学技術のあり方そのものを考えていかなければいけないということです。
こういったエコマテリアルとそれを発展させた概念でもって、様々なところで企業のものづくりの現場を変えていかなければならない時代になっています。フロンティア性というのははっきりしていて、どれだけ強く、どれだけ軽く、どれだけ安くできるのかということですが、人間へのやさしさ、これはあいまいかもしれません。どのように測るのか、使う人によっても違うし、その人の価値観によっても変わってきます。
では、環境にやさしいということはどうかというと、これを定量的に考えなければいけないというものが現在の動きです。
そこで出てくるのがライフサイクルアセスメントということです。これは製品やサービスのライフサイクルにおいて、天然資源から原料をもってきて、加工して、組み立てて、輸送して、消費者の手によって利用されます。そのプロセスで必要となるエネルギー、あるいは発生するCO2や廃棄物などを定量的に推計していこうというのがライフサイクルアセスメントという考えで、略してLCAといいます。
例えば太陽電池もライフサイクルアセスメントに当てはめますと、どのくらい環境にやさしいかということがみてとることができます。これは、民間の住宅の屋根に乗せるものが3kwから4kwの容量のものが通常ですが、太陽電池パネルを作るときにCO2がたくさん出てしまいます。太陽発電を付けなかった場合と付けた場合とで比較してどれくらいの利用で製造時の排出CO2量が回収できるかというと、最初の設置でCO2が出てしましますが、一旦付けた後CO2はほとんど出ません。ところが付けないでいると使った分だけCO2がどんどん出ていきます。どこかで線が交差しますが、この交差する点がいつであるか計算してみました。
結果では14年から15年くらい、またこれに更に独立系の電池を付けるなると50年以上使わないと元が取れないということになります。従来であると100万円かかったから、その100万円を回収するのに何年かかるかといったコスト計算を考えるわけですけれども、これは環境負荷もどれくらいで回収できるかということを計算できるひとつの例を示しています。
材料を選ぶ場合でも、あるいは製品の仕組みを考える場合もそうです。このように環境負荷を定量的に考えていかなければいけないという時代になってきています。
環境負荷を踏まえますと製品のサービスの価値、環境効率をいかに高めていくかが、今の日本の企業に求められているのだと思います。ただ、リサイクルするだけではなくて、環境効率を考えてどのように製品設計していくのか、リユース、リデュース、リサイクル、そのほかリフューズ、リファイン、リーゾナブルマネジメント、リペア、リトリーブエナジー、3R
ではなくて5R、6R、7R、8Rという言葉にもなってきています。
リサイクルというと何でもいいというわけではありません。実際、リサイクルできるものは少ないのです。例えば牛乳パックから何ができているかというと、トイレットペーパーです。トイレットペーパーをまたリサイクルするかというとそうではなく、全部汚泥となります。紙のリサイクルといいながら、リサイクルではなくてカスケード利用しているのが現状です。アルミ缶のリサイクルも同様で、資源を循環させていくプロセスにおいて、いろいろと工夫をし、定量的な考察を加えていくことで環境負荷を減らしてくことができるのだと思います。
第45回講演(5ページへつづく)
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