第45回講演(3/6ページ)

<エネルギーのこれから>

 我々は石炭、石油、天然ガスに頼ってきており、石油があとどれくらいあるのかということが一番気になるところで、石油資源が早くなくなってしまえば、次のエネルギーを探していかなければいけないということになります。今、世の中のシステムがまさに石油に依存しているということがありますから、やはりこのあたりが非常に気になるところです。
 たとえば、原油があとどれくらいあるのかというと、60年分くらいあるだろうといわれています。そして、オイルサンド(軽質分が飛んでしまって重質分だけが残ったもの)や超重質油(オリノコ重油)などは、それぞれ50年、40年分。更に、まだ熟成しきっていない石油のもととなる有機物を含む堆積岩、「オイルシェール」は130年分あり、これらをすべて含めるとあと280年は大丈夫だという推計もあります。
 ところが、オイルサンド、オイルシェールなどを今と同じ質の石油として使おうとすると、かなり加工しなければいけません。研究者の中には、これらをエネルギー源として使うためには、それ以上のエネルギーを投入しないとエネルギーとして得られない、すなわち本来の意味でのエネルギー資源ではないと判断する人もいます。
 石油資源の究極可採埋蔵量は約7.5兆バレルとされていますが、この石油の量をイメージされたことはありますか? 1バレルは体積に換算すると約153リットルとなります。ここで約7.5兆バレルのうち使える油が5兆バレルとして単純にその体積を計算してみますと、世界の原油の量は大体富士山1杯分位になります。この富士山1杯分の石油を我々は既に取り合いをしているというのが現状なのです。
 エクソンモービルが2002年に作成した世界の1930年から発見された油田の数と埋蔵量を表したグラフからは、石油開発のピークは1960年代であったことがみえてきます。そのデータを積算していきますと、世界の石油生産量は、現在、ほぼピークに達しているということになり、いわゆるピークオイル仮説といった議論が出てきています。一方、「そんなことはない」「ほかにたくさん掘っていけばいい」「オイルシェールなどまだまだ見つかっていないところがあるし、まだ大丈夫」といった主張がチープオイル説です。
 現在、中東でも海水を注入して油が浮いてくる原理を利用し、強制的に油を絞り出しているといわれています。この先、いずれにしろオイルは危ない、地球温暖化と絡めて「石油がなくなるゆえに地球温暖化はない」という議論も出てくるわけですが、我々はこのような現状を踏まえて、どう対応するかを考えていくことが大切です。

 20世紀後半、石油の消費、石炭、天然ガスの消費に伴って経済発展を成し遂げました。21世紀に入っても世界の人口は増え続けており、これは欧米、日本ではなく東南アジア、アフリカ、南米といった国々における人口増加を示しています。
 中国を例にとると、2000年における石油需給見通しより、1日の石油消費量は490万バレルです。このうち、中国国内で賄えるものが320万バレル、輸入しなければいけないものは170万バレルということになります。今の経済発展速度から推定すると、2020年には9.4百万バレル必要で、このうち自国内で賄えるものは2.5百万バレル。輸入しなければならないものは6.9百万バレルということになります。
 一方、日本の石油の輸入量の見通しは、2000年ごろは中国の3倍くらいの量を輸入していますが、このまま2020年までいくと中国は明らかに需要、輸入量が伸び、2030年には日本の倍くらい輸入していかなければならないということになります。石油があるのか、ないのか、あるいはもっと質が落ちていくのか、このような事態となると、まさに奪い合いになっていきます。
 石油市場で投資マネーが動いているといわれていますが、石油を買い込んでいけるだけの経済力を維持していくことができるのか、どのようにしてエネルギーを確保していったらよいのかということが問題となります。もちろん石油がなくなってくれば今度は石炭、あるいは天然ガスも含めた資源の確保ということになりますが、いずれにしろエネルギーの消費量が増えていくと、その消費から出ていくCO2の量の影響がさらに大きくなっていきます。
 1991年に世界開発銀行が発表した一人当たりの所得倍増にかかる期間といったデータがあります。これは、ある生活水準を考え、例えば日本の場合であると1885年くらいの生活スタンダードを考えて、その時の収入が倍になるのに何年かかったかというものです。イギリスとかアメリカですと40年から50年くらいかかっています。日本では30年くらいです。
 ところが同じくらいの生活レベルが倍になるのに中国では10年を切っています。そしてこのような国々ではとても人口が多いのです。この下にはアフリカの国々や東南アジアの国々が並んでくるわけですが、人口が圧倒的に多い、発展するスピードが速い、経済発展していくにはエネルギーが必要だということになりますと、それぞれをどうやって賄っていくのか、石油がなくなったら石炭なのか、あるいは天然ガスなのかというところです。そのあたりがこれからの時代、エネルギーあるいは環境を見ていくのに大変重要な視点になってくると思います。
 
 これからのエネルギー問題を解決していくためのひとつの方法は、理想形でいえば自然エネルギーの利用が挙げられます。地球が太陽から常時受けているエネルギーは世界の消費エネルギーのおよそ10,000倍あります。そのエネルギーが地球に入り込んできて、宇宙空間に逃げていっているのが現状です。これは人間が遊んでいようと、寝てようと、一生懸命働いていようと、入ってきて出ていっています。これらのほんの一部は植物という形、すなわちバイオマスで蓄積されていきますが、ほとんどは宇宙空間へ出ていっています。このフローのエネルギーを使うべきではないか、石油とか石炭がストックされたエネルギーであるとすれば、常にフローしているエネルギー、これを使っていくべきだというのが再生可能エネルギー、あるいは自然エネルギーの考え方です。膨大なエネルギー、世界で消費する10,000倍の量が常にフローしているわけですから、それを使うことは地球環境に大きな影響は与えません。しかし、環境にやさしいというメリットがありますが、エネルギー密度が小さい、また不安定といったデメリットがあります。
 太陽電池の発電を考えてみた場合、太陽からのエネルギーが1mあたり約1kwですから、太陽電池の変換効率を15%〜20%とし、日本の年間平均日照時間などを考慮して、発電能力100万kwの発電所を太陽電池に置き換えるとすると、大体、東京の山手線の内側全部に太陽電池を並べなければいけないことになります。
 風力発電の場合についても風車の回転面を基本として、前後左右に一定の間隔を空ける必要があります。たとえば、竜飛岬というところにウィンドファームがありましたが、そこのデータと比較すると、太陽電池を敷き並べるよりも2倍から3倍の面積が必要となっています。
 このようなことを踏まえると、エネルギー量があって環境にもやさしいが、密度が小さく不安定だということになり、少なくとも現在の石油を中心としたシステムを置き換えるものにはなりようがなく、工夫が必要ということになります。我々は、エネルギーを作ってそれを送電線とかパイプラインを使って消費地に供給していくことが当たり前だと思っていますが、自然エネルギーの利用には通用しないということになります。「あたりまえ」を「あたりまえではない」というふうに考えていく必要があります。
 一極集中で作って消費地に送っていくものは「一極集中発電分散供給」ですが、自然エネルギーを使うのであれば「分散発電」をしなければいけません。これは日照の多いところでは太陽電池、風の強いところでは風車を、それ以外にバイオマスがあるところではそれを活用し、そしてそれらを共通するエネルギー媒体、多分水素が一番良いと思うのですが、メタンや電気でもよいかもしれませんが、あるいはそれを貯めるようなところ、メインのループ、あるいはサブのループがあって、相互融通ができるような分散システムというものを考えていく必要があります。根本的にシステムが違うということを認識していかなければいけません。
 「原子力があるじゃないか」という話があります。日本では原子力発電所で50数基が稼働しています。現在、新潟が止まっていますからその分、日本列島からはより多くのCO2が出ていってしまっていますが、原子力発電にもいろいろな問題があります。廃棄物の問題もありますが、あまり普段議論されない視点でみますと、人間が作ったものですから寿命があるということです。原発の寿命を40年とすると、今後、日本の原子力発電による発電量は減っていくことになります。
 築年数と発電容量の関係をみると、2010年過ぎではほとんどの原発がまだ寿命を迎えてないので現状の発電容量を維持していますが、順次40年経過した施設を停止していくと仮定すると、発電容量はどんどん下がっていきます。2020年には大体1/3が止まり、2030年には2/3を停止せざるを得ない状況になります。
 茅先生(茅陽一:慶應義塾大学 政策・メディア研究科教授)に講演をしていただいたときのお話を受けて、原発の発電容量と築年数の関係について計算をしてみました。そうすると、国内の原発は発電容量で毎年175万kw減り続けていくことになります。すなわち、120万から130万kwクラスの原子力発電所を毎年新たに1基以上作っていかないと現在の原子力発電による発電容量ですら賄えないということになります。
 対応としては、新たな発電所を設置していくとともに40年という寿命を延ばしていくしかないということになります。現在計画されている国内の原子力発電所は、11基くらいで、1基作るのに用地選定から初めて30年はかかりますから、それを考えるとこの次の10年に10基できたとしても、少し追いつかないか、なんとか間に合うかということになります。
 しかし、同じスピードで作っていかないと間に合わない、あるいは寿命を延ばさなければいけない、またメンテナンス技術を高めていかなければいけないということになると、原発であってもそれほど安定した期待できるエネルギー源ではないかもしれないということになってきます。
 このように、エネルギーに関しては色々な問題を我々は抱えていますが、これからどうしていくべきか、普段あまりエネルギーのことは考えることは少ないかもしれませんが、日本の置かれた現状、日本は本当にエネルギー資源には恵まれておりませんので、どうしていくべきか我々はしっかりと見極めていかなければいけないということになります。

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