第41回講演(2/4ページ)

 東海大の川田先生がつくったスライドを借りてきた。(スライド画面で説明)病的なさまざまな老化の因子が加わって、元々の生物学的な加齢に病的なものが加わることによって、さらに物理学的な加齢が促進される。その結果、120歳、125歳まで到達できないということになる。生物的な加齢にはどういう根拠があるかをお示ししたい。

 一つは、エネルギーの酸性の割合と寿命の長さをかけ算したものは、動物の種類によらず、常に一定であるという説がある。呼吸生理学、比較生理学生物学の教授で今は亡くなってしまったが、ドクター・ハーマン・ラーンという人がいた。本学の呼吸器内科からは何人も、このハーン先生のもとに留学している経緯がある。
エネルギー酸性の割合と寿命の長さの積は動物の種類によらず一定だということはどういうことかというと、横軸は心臓の脈拍数をとっている。縦軸が平均寿命だ。いくつかの動物をプロットすると、聞きなれない動物だがほ乳類で小さい動物がいる。
 なじみは薄いが脈拍が800回とか900回というものだ。脈拍が多いということは、体の中のエネルギーの使われ方、代謝率が高いと考えていいと思うが、一方、象とかキリンはこの辺になる。この辺をプロットするときれいに直線の上に乗ってくる。
 人は脈拍数が80くらいとすると、この辺になってくる。それに知的効果が加わり、費用をかけての検診を行うことで100歳ちょっとに人はきているのだろう。ただ、広く動物をみると代謝の速度と平均寿命をかけ算すると常に一定になるのは、地球上の一つの法則であろうと思われる。

 私は呼吸器内科が専門で、酸素のことを扱っている。横軸は時間だ。縦軸は専門用語では酸素分圧というが、酸素の濃さと考えていい。体にとって酸素は必要だとの認識だと思うが、実は酸素は生体にとっては毒だ。人間の進化の歴史は酸素からいかに生体を守るかの歴史であるといわれている。
 病院の中で酸素を吸う状況があるが、みなさんが普通に吸っている酸素は空気の中の酸素の21%を吸っている。入院して重酸素を吸うとなると100%の酸素を丸一日吸っていただくことになる。これを24時間吸うと肺水腫といって、酸素中毒で肺が真っ白になって呼吸ができなくなってくる。

 人工呼吸をしているとき、呼吸器内科医が一番注意をすることは、体にとって必要な酸素をできるだけ差し上げたいが、酸素中毒にならないレベルがある。酸素は害なんだということを憶えておいてほしい。

 そういうことでこの図を見ていただくと、 酸素の量が多ければ多いだけ生きる時間が少なくなる。これはウエルチという人が1963年に医学論文としてまとめたもので、いかにたくさんの酸素を吸うことによって肺の障害が起きたかという事故を全部拾い上げてプロットすると、みなさんは酸素の値としてはこの辺のレベルにいるが、酸素が濃いとアッというまに亡くなってしまう。
 今、お話した100%酸素はこの辺になる。そうすると、24から48時間でかなり危なくなってくる。酸素の濃度、酸素の圧が下ってきて今みなさんが吸っているCレベルの、海抜ゼロメーターのレベルと考えればいいと思うが、そこでは普通の260時間程度の範囲内では、ここは交わらない。ただ、この軸をズーと延長して漸近線的な効果があるので、最終的には交わらないが、ほぼ交わりそうなところを選ぶと、何と120年から125年のレベルにいく。
 これも生命の進化の歴史でいかに酸素から逃げてきたかという立場からいうと、人の寿命が120年から125年だろうといわれる根拠になっている。

 まったく別の観点から、旧約聖書の6章3節に「私の御霊は長くは人の中にとどまらない。人は肉にすぎないのだ。人の齢(よわい)は120年だ」と書いてある。
 如何に酸素から遠のく必要があったかとか、動物の大きさから判断するとか、あるいは細胞分裂が繰り返されるテロメア説、それも細胞分裂を繰り返すとどうも120年から125年のところで細胞分裂がとまるとか、いうようなことから、どう頑張ってもこのくらいまでしか生きられないだろうということがわかる。
 ただ、120年、125年を延ばすのではなく、如何に質の高い生活をしようかが重要になってくる。そこで抗加齢医学、アンチエイジングが始まった。

 アンチエイジングは広くは予防医学の範ちゅうに含まれる。もともとはアメリカで1980年代に国策として提起された。90年ころから医学として発展し、日本では2001年に抗加齢医学研究会が発足した。初代会長は今では残念ながらお亡くなりになっているが、東海大病理学教授の渡辺慶一先生である。

「加齢をあきらめずに豊かに老いる」このことを一言でいうと、サクセスフルエージングという言い方をする場合が多い。究極の予防医学といわれて発展が期待されている。

 年齢を経ることによって発生する疾病、あるいは身体的不都合を予防軽減するとともに、さまざまな医学的サポートによって若い時代、若い世代に押し戻すことを目的としている。

 アンチエイジングの世界的潮流としては93年にアメリカでアメリカンアカデミー・オブ・アンチエージングメディシングが発足したり、渡辺慶一先生による日本抗加齢医学会が2001年に発足している。その後、シンガポールで開かれたり、2003年にはパリでアンチエージングワールドカンファレンスが開かれたり、最近はソウル、ラテンアメリカでも開かれているというのが現状だ。

 予防医学、プリベンティメディシンとはどういうものかというと、病気になってから病院に行くのではなく、病気にならないように医療機関を利用するわけだ。生活習慣を見直して病気にならない努力をしたり、定期的にチェックを行って、異常を早期に発見して重大事に到る前に対処する。

 少子高齢化社会を前に、政府は国策としての予防医学に力を入れ始めている。ということで、アンチエイジングは究極の予防医学と位置づけられている。

 「生活習慣病」という言葉があるが、以前は「成人病」といわれていた。平成8年に厚生労働省が生活習慣がその発症や進行に内在する疾患ということで定義をしたが、それまで使っていた「成人病」ではなぜまずいかというと、20歳代、30歳代は勿論、あるいは子どもでも陥る可能性があるので「成人病」では年齢が違ってくるのではないかということが一つの理由として挙げられる。
 「成人病」というと、一定の年齢になると成人はみんななってしまうのではないか。それが死んでしまう原因なるのではないかという暗いイメージがあって、「成人病」というよりは「生活習慣病」という言葉にしようと、その方がより平易な表現で啓発効果にも期待できるであろうということだ。

 この辺から、少し耳が痛くなると思う。段々、身につまされる話に進展していく。生活習慣にかかる生活習慣病とは食事、睡眠、酒、喫煙、運動ということになっている。
 みなさんは健康診断を受けると、最後に指導を受けることがあると思う。脂っこいものを食べて、一緒にワインなどのお酒を飲んだりして、たばこを吸ったり、寝る時間が遅くなって、仕事上のストレスがたまり、体重のチェックはせず、運動もせず、これといった趣味もない、このような方が多いと思う。
 しかし、そうではなくて、睡眠は規則正しくとる、たまには美味しいものをたくさん食べてもいいが自分の健康をチェックしながら食事をとるとか、どうしても仕事上ストレスはたまるが、何とか趣味でストレスを発散するとか、酒は飲み過ぎない、適度な運動をする、時々体重を調べることが必要になってくる。
 このように生活習慣を見直していかないと、人は生活習慣病になってしまう。

 人はなぜ生活習慣病になるかを考えてみたいと思う。食塩摂取は直立歩行に必然性が唱えられている。どういうことかというと、昔、動物は四つ足で歩いていたが人は二足歩行になった。四つ足で歩いている時は心臓の高さと脳の高さは同じレベルにある。ということはそれほど圧をかけなくても、心臓からでる血液は頭にのぼっていった。ところが、起立歩行になると心臓よりも頭が高い位置にあるので、血圧を高くして頭に血液を送る必要がある。
 自然のうちに塩辛いもの、塩分を取って血圧を上げて脳に血流が確保できるように自然のうちにしたというのが一つの説としてある。飢餓に強い生き物のみが生き残るために食べたいもの、美味しいものを食べて強くなって、生き残ってきたのであろう。
 人は動物の霊長類の頂点として欲しいものが容易に手に入るということで、ストレスのはけ口として酒、タバコをたしなむ、これらが繰り返されるうちに生活習慣病になってしまったと考えられる。いくらストレスがたまっても猿は酒を飲んでタバコをすったりはしないと思う。
 その結果、このような体形になってしまった。後ほどメタボリックシンドロームの診断基準をお見せしたいが、(胴回り)男性では85センチ、女性では90センチといわれている。どちらが、まだいいかといえば、まだこちら(洋梨型)の方がいいかも知れない。むしろ皮下脂肪が増えていて、その場合はこの洋梨型だが、リンゴ型というのは段々お腹に脂肪がつくタイプだ。ビア樽状とかビール腹とか、このタイプはとにかくお腹に脂肪が多いなっている。

 このお腹をCTで輪切り状態にして中をみる。レントゲン的に体を断面にする。背骨がみえて背中、お腹。通常足下から頭を見上げる画像を撮る場合が多い。画像の赤く見える部分が全部内蔵脂肪だ。外側の薄いピンクの部分が皮下脂肪で、その境部分がどのくらいあるかによって内蔵脂肪がいかに悪さをするかということが、定量的にデータとして取れる。
 この場合は内蔵脂肪の面積が191、約200平方センチメータ。これは以上に多い状態だ。あとは皮下脂肪の面積がどれくらいあるかとか、そのトータルした全体脂肪の面積がどれくらいあるかとかだ。

第41回講演(3ページへつづく)