第40回講演(3/4ページ)
−スライド29〜32[日中関係]−
今度は日中関係と日韓関係に移りたいのですが。あまり時間がありません。
やはり、冷えきった日中関係、日韓関係のコアになっている、原因となっているのは、靖国参拝問題が甚く両国を刺激したということは繰り返しいわれております。小泉さんは、参拝は私事であり、心の問題だと言っているんですけれども、それでいいのかという議論、中国側も、韓国側もそれを攻撃しているわけです。A級戦犯が合祀されている中で、参拝をするのは戦争の歴史を、あの太平洋戦争が正しかったと肯定しているのではないかという歴史認識を非難しているわけです。東京裁判が不当な裁判といっているけれども、結局は東京裁判の結果を受諾して戦後の日本がスタートして現在があるのではないかということもいえるわけです。
そして、日本の軍国主義の被害にあったアジア諸国人民の感情を傷つけている。ついにそういった反論が2005年4月には中国で反日デモとなって燃えました。
首相一人の文化、心の問題で日中関係がこじれていくのは正に異常であろうということで、中国としてもこれは譲れないという態度をとっています。
国立の追悼異例施設建設をすべきだという意見もその後出てきました。ただ問題は日本として戦争をどう考えるか、戦争責任をどう扱うかという総括が未だできていない。そういう意味では、日中、日韓関係を含めて戦後は未だ終わっていないだろうと私も思うわけであります。
そして最近の中国で注目すべきは、ネット民族主義が台頭してきたということです。インターネットによって、この間の反日デモもそうなんですけれども、今やネットで反日デモが起きたりする。愛国主義教育と排外的大国主義的民族主義、これをネット民族主義だといわれているんですが、このネット民族主義は「日本に対してもっと中国は強硬になれ」、「友好交流病になるな」とメールでやりとりして、盛んに叫んでいるようです。そして、この間も日本の安保理の理事会入りが失敗しましたけれども、これは中国は断固として日本の安保理入りには拒否権を使うのではないかとこのネット民族主義者たちは叫んでいました。ネット人口が1億人、ますます増えており、これを無視することはできない。大衆化の動きです。
大体一般の人は月収500元、7500円くらいですが、そのインターネット、あるいはPCを買うのはお金がかかるにもかかわらず、人数が増えて大衆化の様相をみせているわけです。
−スライド33[【過去の小泉総理の靖国参拝】]−
これは一応総理の靖国参拝の記録だったのですけれども。
−スライド34[中国の日本イメージ]−
では、中国の日本に対するイメージというのはどうかというのをここのグラフに示しました。
普通と感じたのは35%、親しみを感じないというのは31%、ほとんど親しみを感じないというのは22%、親しみを感じているのは5.4%、わからない4.6%...というは、中国の社会科学院の資料なのですけれども。親しみを感じない、ほとんど親しみを感じないを合わせると50%以上、半数以上が今は日本に対して持っているイメージだということです。
−スライド35[日本の中国イメージ]−
今度は日本が中国に対してどういうイメージをもっているかというと、1988年には日本人は中国に対して非常に親しみを持っていた、ところが2005年は、つまり反日暴動が起きたり、デモが起きたりしまして32.4%と急激に減っております。そして対中関係が良好だといったのは、88年には67%だったのが、今は19.7%と日本も中国に対して冷ややかな、親しみを持たないような傾向が、2005年から今年にかけてあるということです。
−スライド36[アンケート]−
これは外務省関係者の話なのですが、「中国人は日本嫌い、大嫌い」80%となっていて、彼らは何故日本に対してなぜそういう感情を持つかというと、情報源は90%以上が「新聞雑誌」「TVニュース」「学校の授業」「親、友人」といった間接情報であり、直接体験して、つまり留学して日本をこういうように感じるというのはわずかに10%だという結果です。
したがって、今後は等身大の現在日本を見せることが必要ではないかということですが、これにはビザの問題があり、非常にビザが厳しいのですけれども、それを緩和するべきだろうと、信頼できる中国人にはマルチビザを出してもよいのではないかという意見も最近出始めてまいりました。
そして更に重要なのは中国への情報発信が必要になってきたのだという話です。
−スライド37〜39[中国は一枚岩ではない]−
我々が中国を見る場合に知っておかなければいけないのは、何も中国は一枚岩ではないのだということです。
今、胡錦濤総書記がトップですけれども、江沢民派の影響が残っていて、その影響下にあるために一枚岩で外交政策をやるのではないということです。とくに現在63歳の胡錦濤は2012年には引退しなければいけない、だろうということです。後継者がこの人になるといわれているのですけれども、李克強という遼寧省の初期なのですけれども。そこへはたして、うまく、スムースに権力が委譲できるか、あるいは江沢民派がまた乗り出してきて権力闘争がつづくのか。上海閥、つまり江沢民は上海出身ですから、その出かたが今後の中国をみる上で必要だろうというような話になっています。
とくに中国外交をみてみますと、中国は最初のうちは小国意識、「我々は貧しいのだ」という意識だったのですが、最近は成長率も年7%から8%、10%近くになってくると大国主義意識に変わってきた。そして、唯一の超大国であるアメリカの一極支配に対抗するために「オレも仲間に入れろ」と国際関係全般に関わりを持とうとしてきております。そのためにはなんとしても米中関係が大切だということで、人権や台湾問題、貿易摩擦問題でも米中関係では譲歩も惜しまないとして、米中関係を良好に維持したいということで、米中が決定的な対立局面を迎えないように努力をし始めているというのが中国外交の今の雰囲気です。
−スライド40〜41[中国のアセアン外交]−
もう一つ中国のアセアン外交をみますと、これはアセアンの一国、一国と個別に取り組んでいくとして、今日本が対中関係、対韓関係でモタモタしているうちに、中国は積極的にアセアンに南下政策をとって、アセアン各国と個別の関係を強化していっています。そして、むしろ、団結力が強くなったアセアンを弱める方向に動いていくのではないかというようにもいわれています。
6者協議というのは対北朝鮮に対抗してやっているわけですが、とにかくアメリカを引き込んでおこうということで中国が6者協議にイニシアティブをとるという狙いがあります。
−スライド42〜43[今後の日中関係]−
今後の日中関係をみていくうちに重要なのは、何度もお聞きになったかと思いますけれども、中国には区別論といいまして戦争責任については一般の日本人と、責任者と区別して考えているのだとし、つまり戦犯と一般の日本人とは別ものだと、戦争責任はべつものだということです。ということは、ずっとこれからも外交交渉の中でいい続けるのだということです。
中国は次の3点で日中関係をマネージメントしていくといわれているのですけれども。日中関係というのはやはり2国間関係として考え、最重要だというふうにみていることは事実だということです。しかし、靖国問題を引き続き日中間の重要、主要な政治的な障害として日本側にその除去を求めてくるだろう、つまり靖国神社を外交カードとして使ってくるだろうとみられております。そのうえで、靖国神社をカードとして使うけれども、しかし実務レベルでは、政府実務レベル、あるいは議会、政党、そういったレベルでは交渉を進めていくのではないかということが今後の日中関係にみられる動きだろうと思います。
今度安倍さんになりました。
それでは11月のAPECの前に日中関係が、日中首脳会談が行われるかどうかという水面下の動きがあって、いかにもありそうなのですけれども。その辺はむしろ田中先生の方がよくご存知だろうと思うのですけれども。
やはり、中国にとってもなんだかんだいいながらも、日本なくしては今後もうまくいかないという自覚はあるわけですから、どこかで双方が歩み寄ることが、歩み寄らざるを得ないだろうと私は思っています。面白いのは、これも何かの資料にあったのですが。
中国もやがては高齢化時代を迎える。
2030年には人口13億の二割が65歳以上になるだろうということで、その間にいかに腐敗や格差が解決できるか、中国にとっても非常に悩みの多い状況が続くだろうということです。そのときに備えて、日本の協力が中国にとって不可欠であるというふうに考える指導者が出てくるかどうかということが、今後重要なポイントになるだろうといわれています。胡錦濤さんがそこまでもつとはとても考えられませんから、その後ポスト胡錦濤が出てくるということになってきます。
−スライド44[韓国人の日本イメージ]−
次に韓国。
韓国のイメージは、2002年のワールドカップで日本に対する高感度が変わりました。これは2003年の調査ですけれども、韓国周辺の5カ国の調査でみられるのは、ダントツが日本でその次に北朝鮮で、中国、米国、ロシアとなっています。
−スライド45〜47[日韓関係]−
日韓関係は、最近の日韓関係は申すまでもなく、例の「竹島の日」条例が上程されて、それが攻撃の的になりました。盧武鉉大統領は、実は「両国関係の発展には、日本の政府及び国民の真摯な努力が必要である」と言っていたのですが、突然「日本政府の侵略及び支配の歴史を正当化し、再び覇権主義を貫徹しようとする意図」の是正と誠意ある対応を求めてきました。
つまり、いきなり反日ムードに大変換したわけですね。これは何故かというと。それから靖国参拝も大きな要素なのですけれども。
−スライド48〜50[今後の日韓−反日3点セット]−
2005年は、実は「日韓友情の年」であったのが、「反日と嫌韓の年」になったというふうに変化したのは、盧武鉉大統領の政策の大転換があったということです。
それは、自分の人気が落ち込んできたためにそうせざるを得なくなったということになっています。
今、日韓関係の大きな障害となっているのが「独島」、いわゆる「竹島」、そして靖国、そして教科書問題の3点セットを解決しなければ日韓関係は良好にならないだろうといえると思います。盧武鉉のナショナリズムは、自分の支持率を高めるために更に強硬になってくる。面白いのは、今韓国は日韓関係も米韓関係もよくないのです。
この間ブッシュのところに盧武鉉が会いに行ってやはり意見が違って帰ってきました。ところが、盧武鉉の任期は2008年1月ですが、そこまでもつかどうかということがいわれていますけれども、今後は、韓国は中国の顔色をみつつ対日行動を続けていくだろうといわれております。
20歳代がもはや50%を占めてきて、更に過激なナショナリズムがこれからも強まってくる、あるいは育ってくることが予想されるので、その過激なナショナリズムをどういうふうにマネージメントしていくかというのは、それを盧武鉉は利用していくかどうかということがポイントになっていくだろうと思います。
−スライド51[アジア外交]−
アジア外交についてみても、小泉さんの靖国参拝を批判しているのは中国、韓国だけではなくて、東南アジア諸国にも存在しています。
シンガポールのゴ・チョクトンさんという前の首相は、やはり日本の指導者は参拝をやめるべきだといって、「日本国内の政治問題だけではなくて既に国際的な外交問題だ」といっております。
−スライド52〜53[アジア7カ国世論調査]−
これは読売新聞が9月14日に社説で取り上げたのですが、7カ国世論調査というのをやったんですね。対象は日本、韓国、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナム、インドです。その結果、中国に対してアジアが非常に注目しているということで、「中国に良い印象をもっている」と答えたのがマレーシアとインドネシアの80%を超しており、「中国の発展が自国経済に与える影響」というのは、日韓を除く全ての国で、自国経済にプラスだと答えました。「今後経済力を含めてアジア地域に最も影響力を持つ国や地域」という質問に対しては、マレーシア、タイ、ベトナムがそれぞれ中国をトップに挙げています。
先ほど中国のアジア外交というのに一つ一つアジアの諸国に働きかけているというのと同じような結果が出てきているわけです。
−スライド54[一冊の本]−
これは最近出た本で、私は非常に感銘を受けたんですが、鎌田実さんといって諏訪中央病院の名誉院長なのですけれども「この国が好き」という本を出しました。これは子供用に出したんですけれども。この中で「僕たちの国はすごいのです」というようなテーマで書いているんですね。つまりこれは憲法改正反対の、憲法を守ろうではないかという本なんですけれども。子どもさんも大人も読んでいい話なんです。
「日本人はまじめでがんばるのが好き。
世界に追いつこうとがんばって、がんばっていくつもの戦争をした。
日清、日露、第一次、第二次世界大戦。
戦争が好きな人がいたのです。
まわりの国の人々がつらい思いをさせられました。
日本の人々も苦しみや、悲しみを味わいました。
僕たちの国は戦争ですべてを失いました。
大切なキミの命を戦争で奪われたくない。
キミが戦場で人を殺す。
そんな未来を創造したくない。
戦争が好きな国が60年間も戦争をしませんでした。
日本国の兵隊として60年、一人も人を殺していない。
すごいことなんです。
僕たちの国、すごいんです。」
というような、わかり易い言葉でこのようなことをいっている本があります。何か機会があれば、ぜひお読みいただきたいと思います。
−スライド55[Statement & Politician]−
それで私が言いたかったのは、「Statement & Politician」。これを考えていただきたい。はたして小泉は「Statement」であったのか?あるいは「Politician」ではなかったか?
「Statement」というのは文字通りで、「a person who is engaged in fixing the policies
and conducting the affairs of a government especially by showing unusual
wisdom in these matters」といって、「政策の決定や政務の運営上、とくに並外れた知恵を示してそれに従事する人。経世家。」のことです。
「Politician」というのは、「one who is actively engaged in party politics or
in conducting government affairs」で、「政党活動または行政業務に積極的に従事している人(政党政治家、政治家)政治屋、政治学者。正論家、政客」のことです。
つまり使い分けているわけです。
はたして日本に「Statement」がいたろうか?
「吉田茂さんがそうだった」という人はいますけれども、ほとんどの人が「Politician」ではないか、小泉さんも「Politician」ではないかと私は思います。それから安倍さんも、まだ「Statement」までいっていない。待望するのは、その「Statement」だということです。
では、海外に目をやってみると「チャーチル」がそうであったか、「ケネディ」がそうであったか、というふうに考えるのですけれども、僕は「ブッシュ」が「Statement」だとは思えない。
第40回講演(4ページへつづく)
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