第37回講演(5/6ページ)


 日本の証券会社は、何故色々な企業の株式に株価をつけないか。実は、これはある意味危険な行為であるからだ。つまり、一株250円という価格をつけて、誰も買う人がいないとなると、あるいは誰も売る人がいないと、自分で買う、あるいは自分で売るという、自らリスクを負わなければいけないことになる。とくにバブル崩壊後、金融機関の信用は地に落ちた感がある。自らリスクを負い、価格付けをするほど日本の証券会社は、まだそこまで進歩的ではないということだ。

 アメリカの証券会社は、食うか食われるか、生きるか死ぬか、まさに厳しい世界で、有望な企業の株式を早く価格付けをして、その有望な企業のメインの証券会社になって有望な企業を取り込もうと血眼になっている。そこが日本とアメリカの証券会社の非常に多きい違いなのだと思う。つまり競争がある意味すべてだと、非常に冷たい世界なのかもしれない。
 いずれにしても、リスクをとることによって、28,000もの企業の株式に価格がつけられている。そのために、株式の取引が活発に行われているということがある。

 更に、では何故、アメリカの個人投資家がそんなに活発に自分で売買するのかが非常に大きなポイントになる。これはどうしようもない部分だが、日本の教育システムとアメリカの教育システムとに非常に根本的な違いがあるのだろうと思う。

 私はアメリカが全て良いとは決して思わないし教育の専門家ではないので、あくまでも経済教育という側面だけに絞って話せば、アメリカは小学校5年生で既にインターネットを使って株式の模擬取引を行いる。それから小学校6年生になると実際に証券会社を企業訪問したり、銀行を企業訪問したりして、銀行は何をやっているところか、証券会社は何をやっているところかを実際に企業訪問で、自分の目で見て、耳で聞いて、我々の世界がどういう企業で成り立っているかを勉強している。当然、銀行も証券会社もそういった小学生を受け入れている。何故彼らは受け入れるか?そういった小学生は、将来自分たちの顧客になる可能性が高いからだ。
 私もかつて19年間銀行で働いていたが、日本の銀行は、例えば小学生が訪問したい、企業訪問したい、希望はたくさんあるが、よほどの強いコネでもない限りは却下している。仕事の邪魔だからだ。極めて単純な理由だ。

 銀行は大人の客はたくさんくるから、そのような中に子どもが(ガキン子)がいっぱい来て、ワーワー、ワーワー、ギャーギャー、ギャーギャー騒ぐと仕事の邪魔であると判断して、銀行は却下するわけだ。これもおろかな話で、アメリカはちゃんと小学生が来たときのために、訪問のためのルートを作っている。それに対して日本は当然のことながら、小学生が企業訪問したときの訪問ルート、担当というものは全く作っていない。つまり準備態勢を全く持っていないということだ。
 それは証券会社も同じ。店頭で小学生が来てワイワイ、ギャーギャー騒げば仕事の邪魔であるということで却下している。受け入れ態勢が根本的に違う。更に、アメリカの金融教育、経済教育は株式投資、金融教育のための銀行訪問、証券訪問だけではなくて、株式投資が何故個人とって必要であるか教えている。
 例えば、マイクロソフトに株式投資、つまりマイクロソフトが発行した株式を買った個人の投資家が多大なる社会貢献をしていると教えている。何故か。これは単純な話で、マイクロソフトは3人でスターとした。そして、ウィンドウズソフトを開発して大きくなってきた。大きくなれば当然のことながらたくさんの人を雇う。人を雇えば所得が上がり経済が成長する。マイクロソフトだけのお陰ではないが、シアトルが成長したことの大きな要因に、マイクロソフトが多大な貢献をしたことは確かだ。
 つまり、個人の投資家がマイクロソフトの株式を買うことによって、マイクロソフトは資金を得て、その資金が成長のための源となって企業を大きくし、最終的には多大な雇用を生み出した。そして国の経済の成長を支えた。
 つまり、源は個人が株式を購入したそのお金なのだ。お金を投資することによって個人は社会貢献をしている、だから株式投資が必要なのだということを、小学校の段階でアメリカは教えている。
 日本の場合には、株式投資で金を儲けると、まるであぶく銭を掴んだかのような感覚で、「お前はエエのう株で儲けて」と、よく言われる。アメリカの場合には少なくても株式投資をする行為は、社会貢献のためのひとつの手段であると考えるので、決してあぶく銭を得たとか、まして日本人のように宵越しの銭はもたないなどと、株で儲けた金を一晩で使ってしまうようなバカな行為は決してしない。それをまた、新たな投資に向けていくのがアメリカの場合の一般的なやり方だ。

 いずれにしても、貯蓄は善に対し、株で利益を得ることは悪だとの教育がどこで行われたかわからないが、日本銀行の中には貯蓄広報委員会があって、貯蓄の奨励を昭和22年からやっている。その影響があるのかもしれない。

 貯蓄が善で、株式投資が悪とは決していえない。株式投資は社会貢献の一つの手段であり、アメリカはその点を非常に強調して教育を行う
 アメリカでは高校生で既にデイトレーダーがいる。つまり、株で所得を得ている高校生が実際にいる。これは、ある意味、株式投資教育の悪い側面が出ているといえなくもない。
 高校生は所得がないわけで、高校生の段階でデイトレーダー、つまり株で毎日取引をして所得を得るという人間がいるということは少しいきすぎだと思う。自分で所得を稼ぐようになってからやればよいことだ。
 銭儲けという側面がかなり強く出てはくるが、アメリカの教育目的は、「株式投資は社会貢献のための一つの方法である」と教えていることだ。それが日本と非常に大きな違いである。それだけではなくて、アメリカは直接金融を中心としていることが挙げられる。例えば、株式を発行して個人投資家が買ってくれるとか、ベンチャーキャピタルのような企業があって、その企業がそんなに信用力がないベンチャー企業に対しても資金投資を行うことなど、活発に行われている。そういったことは、日本ではあまり行われていない。日米の制度の差、現実の差が、どこから生まれてくるのか、それは金融教育が大きな違いをもたらしているということだ。

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