第37回講演(6/6ページ)
企業が直接金融を行うことは、社会全体からお金を調達するという行為だ。当たり前のことだが、粉飾などはもってのほかということになる。日本でつい最近、カネボウの取締役が粉飾決算で捕まり、監査をしていた公認会計士まで捕まった事件があった。これは、いかに日本が企業人の中で利益をごまかそうとする意識があるかという表れだ。アメリカにもそのような人はたくさんいるが、少なくても制度して粉飾をやった場合には非常に厳しい措置が待ち受けている。当然粉飾をやったことがわかった時点でブタ箱行きということになる。それだけではなく、情報開示もある。
日本の情報開示だと役員の学歴だとか、どうでもいいことが書いてある。これに対し、アメリカの情報開示の大きな特徴は、マイナスの情報でも開示していることだ。典型的な例を挙げると、マイクロソフトがエックスボックスというテレビゲーム機を発売したとき、ゲーム機を開発するために多大な資金がいる。資金の調達のために社債を発行した。社債を発行するときにマイクロソフトは情報開示で何をやったか。例えば、ソニーのプレイステーションとどこが違うかとか、競争力の違いが何であるか、他社の競合製品と比べた場合エックスボックスにどういった弱みがあるとか、そういったことまで全部情報開示をする。何故そのような情報開示をするか。理由は簡単で、株価が下がって投資家が損失をこうむった場合に情報開示をしていなかったら、アメリカは訴訟社会ですから訴えられてしまう。つまり、必要な情報開示をやっていなかったではないか、やっていなかったから損をしたのだということだ。
今から4年前になるが、エンロンやワールドコムは、利益が出ていないのに多大な利益が出ているような粉飾決算をした。あれを契機にして、企業改革法ということで企業の情報開示に関する規定が非常に厳しくなってきた。このことも非常に大きな契機になって、アメリカは基本的にマイナスの情報も全て、オープンにしなければならない。
ところが、日本の場合にはマイナスの情報に対する情報公開規定というものがない。非常に甘い規定になっている。適切かどうかわからないが、西武の堤さん、カネボウの帆足さんのようにマイナスの情報は一切隠し、それどころか粉飾決算までして自分たちの身を守ろうとする経営者が出てきてしまう。そういう土壌が依然として日本にある。
大事なことは、ベンチャー企業が株式を発行して資金調達をする場合に、社会から資金調達をするわけだから、自分の企業の正確な姿を全て詳らかにする必要性がある。そのために情報開示が必要なのだということだ。
個人投資家のことを「エンジェル」という。これは、ベンチャー企業や中小企業にとって資金提供してくれる人は天使のような存在であるということからきている。アメリカではエンジェル同志の結びつきが強い。インターネットを通して情報公開したり、あるいは大学の中でエンジェルが集まって企業の説明会を開いている。そこにベンチャー企業の経営者がやってきて、自分のこれからやりたい事業展開を説明するわけだ。説明して、「もしこの計画にご賛同していただける方がいらっしゃれば私に資金を提供してください」と大学がやる。
アメリカの主たる大学ではやっている。今、日本の大学でそうしたことをやっている大学は、一切ない。
アメリカは、インターネットだけではなくて、大学がアナログの部分を、ある意味担っているということになる。直接金融を行うためのデジタルでもアナログでも、色々な側面で直接金融を支える制度がかなり構築されているというのが、私の正直な感想だ。
基本的に日本が成長するためにはエンジェル、すなわち個人投資家を育てる必要があるということだ。また、エンジェルによって支えられるベンチャー企業を育てていく必要性があるということだ。そのためには日本は、例えば投資教育、金融教育をやろうとすると必ず文部科学省からイチャモンをつけられる。まず、最初に改革すべきは、「役所」なのかもしれない。
この内容は2005年9月27日シャトレーイン横浜で行われた講演を記録したものです。講演者の話の趣旨はなるべく忠実に伝えるように心掛けていますが、文章化するにあたり、その性質上多少異なる場合もあります。尚、記事の掲載に誤りのある場合は講演内容を優先するものとし、お詫び申し上げます。
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