第37回講演(4/6ページ)


 金融制度だけで企業を成長させることは不可能であって、問題はその企業を取り巻く金融環境にある。金融環境とは非常に難しいことばで、制度だけではなくて、教育など色々なものを含んだことばということになる。金融環境を醸成するのは金融制度と金融教育だ。

 今、日本とアメリカで中小企業、ベンチャー企業を育成するシステムに大きな違いがあるのか、あるいは結果として例えば日本の中に生まれてくるベンチャー企業、アメリカの中で生まれてくるベンチャー企業で、どれくらい生まれてくる率が違うのか。
 経済を支えているのは、中小企業、あるいはベンチャー企業だ。大企業は、規模は大きいが、支える部分はごく一部であり、あくまでも経済の屋台骨を支えているのは中小企業、ベンチャー企業といったところだ。
 日本とアメリカで、ベンチャー企業の生まれてくる率がどれくらい違うのか。生まれてくる率は開業率という指標でみる。分母に現存の企業数、分子に新規に開業した企業の数をあてて開業率が表される。その開業率を比較すると、1990年代で日本とアメリカではものすごい大差が出てくる。例えば、1990年代のアメリカの開業率は、10年間平均で、13%になる。すなわち、既存の企業数が100社あると、毎年13社新しい企業が生まれてくることになる。

 ベンチャー企業は次々と生まれ、そして倒産していくものもあるが、小さな芽が大きく育って大企業になっていく例もたくさんある。その代表的な例が、マイクロソフトだ。今、我々がパソコンを起動させると、最初にウィンドウズという言葉が出てくる。パソコンの中に内蔵しているソフト、これを作っているのがマイクロソフトだ。会長はビル・ゲイツ、年齢は確か私と同じと思う。彼はハーバード大学を3年生で中退をし、今、イチローが所属するシアトル・マリナーズ球団があるシアトルでマイクロソフトは開業している。

 1976年か1977年に最初は3人で始めた。それが今や、全世界で雇用者数が、確か8万人を誇る大変な会社に成長している。ベンチャー企業の中でもっとも成長した企業といえるかもしれない。3人でスタートした企業も、個人でお金を投資した投資家が実はたくさんいる。まさにこれがアメリカの成長の原点であるといる。これに対して日本の場合には、1990年代の開業率は4.5%で、100社あれば4.5社、1000社あれば45社が新たに生まれる。開業率だけでいうと、アメリカのほぼ3分の1になっている。

 日本にもベンチャー企業のための株式公開市場として、東京証券取引所に東証マザーズ、大阪証券取引所にはナスダックジャパン、現在はヘラクレスと名前を変えているが、ベンチャー企業のための株式公開市場が作られている。今現在、株式を公開している企業の数は多くはない。マザーズとヘラクレスに上場している企業の数は、今年の8月末時点で260社ある。
 非公開だと株式に価格はつかないが、株式公開で価格がつけば売買ができるメリットがでてくる。すなわち、非公開の企業であれば、その非公開の企業の株式をもつことは非常に難しいが、株式に価格がついていることによって、売買という行為が生まれて、株式を持ちたい、個人で株式投資をしたいという投資家に、株式投資の道が開けてくるといったメリットがでてくる。

 アメリカの場合、株価がついている企業はどれくらいあるか。アメリカの場合はニューヨークダウという言葉が使われている。ニューヨーク証券取引所が一番有名だが、ニューヨーク証券取引所だけではなくて、アメリカン証券取引所やサンフランシスコ証券取引所など全国に7つの取引所があり、2002年時点で登録されている企業は、3,300社ある。有名なところではナスダックというベンチャー企業のための株式上場市場で、6,900社が上場されている。しかし、アメリカで株式に価格がついている企業の数は、証券取引所、ナスダックに上場されている企業だけではなくて、店頭取引市場とか、ピンクシート市場、更には最近ハリケーンが上陸したニューオリンズなどの地方都市、いわゆるローカルマーケットといわれているところがたくさんある。ローカルマーケットで、店頭・ピンクシート市場で取引されている企業が7,700社、ローカルマーケットで10,000社となり、全部で約28,000社の株式に価格がついていることになる。逆にいうと、28,000社の株式の売買を行うことができる。

 価格が自動的につくのはあくまでも証券取引に上場されている企業だけで、自動的につくわけではない。例えば店頭市場、ローカルマーケットでは証券取引のような市場ではないので、基本的にはローカルマーケット、例えばニューオリンズだけのマーケット、ボストンだけのマーケットと、エリア的には狭いがその中で価格がつく。日本でいうところの証券会社がその企業の株価がどれくらいであるかということを、気配で示していかなくてはいけない。

 アメリカの場合には、信じられないくらいのたくさんの中小証券会社がある。そのような中小証券が生き残りをかけて、企業の気配値を計算している。計算して、インターネット上に価格として流すことをやっている。日本でもようやくインターネット上で株の売買を行えるようになったが、アメリカの場合には、ほとんどインターネット上と考えて結構だ。証券会社の窓口へ行って株の売買をするという人はほとんどいない。
 インターネット上で株の売買を行っているローカルマーケットは、価格がいくらであるかがわからなければ売買はできない。その価格がいくらであるかという部分を一生懸命掌っているのがそういった中小の証券会社なのだ。
 その中小の証券会社が、例えばA社の株価がいくら位であるかを計算して提示する。その提示でもって、この価格であれば買いたいと思う個人投資家がでてくる、そうすると売りたい個人投資家も出てくるわけで、「売りたい」、「買いたい」と思惑が一致して売買が成立する。こういうかたちにアメリカの場合はなっている。
 日本にはこのようなマーケットは、ほとんどない。わずかに、店頭有価証券市場というマーケットがある。現在87社、別名グリーンシートマーケットといっているが、このマーケットでは、証券会社が価格をつけ、自分で価格を算定して、これくらいであろうという気配値を提示して、そして売買を行っている。

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