第37回講演(2/6ページ)


 もう一つの特徴は、日本の中でも、首都、地域的に偏りがあるということだ。今、日本国内で有効求人倍率が一倍を超えているところは、関東地区と名古屋を中心とした中京地区の二つの地域しかない。それ以外の地域における有効求人倍率は一倍以下、すなわち、労働が余っているということだ。労働が足りない地域は関東地区と中京地区の二つしかない。
 大阪に行くと、大阪流では「もうかりまっか?」ということになるが、「あきまへんな」という感じになっていて、「ぼちぼちでんな」という言葉すらでてこないというのが大阪の現状だ。
その意味では、景気が踊り場を脱却したというのは、あくまでもマクロ経済的な視点からみて、数字上では確かに踊り場脱却がでてくる。とくに今年1月から3月が5.8%、4月から6月が3.3%という成長率を達成したことからすれば、踊り場脱却という発言が政府サイドから出てくるのは、ある意味当然というものがあるかもしれない。この踊り場脱却の宣言がたまたま今回の選挙の前だったことが何となく意図的な部分があるようなないような、胡散臭さが感じられる。

 日本の企業の99%を占める中小企業では、ほとんど景気回復の実感が得られていないという状況のもとでの踊り場脱却宣言ということになる。その意味では、決して日本の今おかれている現状はとても楽観できる状況ではないだろうということが私の感じているところだ。
ポイントとなるのは、大企業と中小企業が、どの程度景気に関して実感の差があるかということになる。

 3ヶ月ごとに発表している日銀の短観によると、業況判断DI(Diffusion Index:ディフージョン インデックス)、全企業のうち景気が良いと思っている企業の割合から景気が悪いと思っている企業の割合を引くというものだが、6月時点でみると大企業と中小企業のおかれた立場を明確に表している。6月時点での大企業製造業では、業況判断DIは18という数字がでている。これは景気が良いと思っている企業の割合から悪いと思っている企業を引くと18%で、良いと思っている企業が悪いと思っている企業よりも18ポイント多いということだ。これは3月時点で14ポイントだったものが4ポイント上昇し、6月時点で18ポイントとなったことを示している。

 大企業の非製造業についても15ポイントで、良い方向へ向かっていると判断している企業の割合が増えているということになる。問題は中小企業で、中小企業の製造業では、6月は+2ポイント、3月は±0ポイント、すなわち良いと判断している企業と悪いと判断している企業が同じ割合であったということだ。非製造業にいたっては、3月-14ポイント、6月で-12ポイントで、景気が悪いと判断している企業のほうが圧倒的に多いということになる。

 非製造業というのは、電力、サービス関連産業、小売、流通などだが、つまり、物が売れないことを表していることになる。いずれにしても、中小の非製造業がこれだけ業況判断DIが悪い、すなわち悪いと思っている企業のほうが圧倒的に多いということは、実は、正に今の日本の実態を表していることで、物が売れないことの証明になる。

 労働者の所得をみると、景気が回復しているにもかかわらず、収入がほとんど伸びていない。むしろ非製造業では、収入が下がっている状況だ。何故このようなことが起こるのか、ひとつは、非製造業を中心としてリストラというかたちで、雇用の調整が行われているということだ。もうひとつは、常用雇用を減らして、つまり生産員を減らしてパート、アルバイトなどの賃金の安い人たちをドンドン雇うかたちを企業はとっている。そのために、所得全体としては非常に伸び悩みを示しているということだ。

 このように、今、日本の景気、経済がおかれている現状は正にまだら模様という部分が強く出ている。つまり地域的にも景気の良し悪しがはっきり出ているということで、関東と中京圏は良いけれどもそれ以外のところはあまり良くないとか、企業の規模別に見ても大企業は良いが中小企業はよくない。それから、製造業は良いが、非製造業はあまり芳しくないというような要因が強く出ている。
 例えば、亀山ろうそくで有名な三重県の亀山にはシャープの工場があり、このシャープの工場に部品を供給する部品メーカーがたくさんある。ここは非常に景気が良い。少し外れた三重県の津をみると「さっぱり」だ。
 有力な企業が工場をもっていると、その近辺はかなり活発な経済活動が行われているが、同じ三重県でありながら県庁所在地の津では、経済的に全く振るわないという状況が生まれてきてしまっている。
 というのは、同じ県の中でもかなりはっきりとした色合いの違いというものが出てきて「まだら模様」の状況となってしまっている。その意味で、経済が踊り場を脱却したといっても、昔の高度経済成長時代にはみんなが一生懸命働いて、みんなの所得が増えていく、所得が増えればテレビも買える、車も買える、クーラーも買えるということではない。すくなくとも、今の日本はそういう状況ではないということだ。

第37回講演(3ページへつづく)