第33回講演(2/4ページ)
この「所得保障」を行うやり方は税金でやる税方式とそれから社会保険料を集めて、これを運用して行う社会保険方式とがあります。国によって考え方がありますが、税方式になると税金をもっと上げることになります。税方式の場合は低所得、その他の理由で税金を払わない人もいます。従って税金の払う人のところに税金を払わない人の分の負担が転嫁されていくという問題があります。 保険には民間のものと社会保険とがあります。すべて国民は自己責任でやりなさいというなら、民間の保険会社と契約すればいいわけです。ところが、自分は老後の生活費へちゃんと貯められると思って保険に加入しない人もでてくる。或いは予測が外れるなど、いろいろなケースがあります。もし、そのような人が多くなった場合は生活保護その他で、まじめに働いて社会保険料を払っている人たちの税金で払わなかった人の分を負担するということ、これは不公平だということになりますので、それでは強制的に社会全体として適用される保険に入って貰おう、これが社会保険ということになります。 危険を分散する、リスクプーリングという役割があるわけです。従って、強制加入にしてあるわけです。ただし、所得水準が人によって違いますから、応能負担といって所得の高い人ほど保険料負担が高く、そして所得再分配の機能は、本来は目的としてないのですが、実際には保険料を納める時は所得比例、しかし、給付の時はいろいろ制約があって、最低限をかさ上げし、上限を抑えていますからある種の所得再分配の機能が働いている、このようになっています。 社会保険の運営には、積立方式と賦課方式とがあります。積立方式は保険料を集めて市場で運用して、納めた人たちが退職して時にこれを原資として年金を給付する方式です。この方式だと、日本のように団塊の世代が非常に多いといっても、この世代が納める時にもたくさんの人がいたわけですから、給付する時もそれを財源としている限りは、あまり影響はないといわれています。ただし、インフレが起きて年金給付の時に物価水準が高くなってくると、納めた時の物価水準と比べて実質価値が落ちてしまうという問題点があります。 それに対し、賦課方式は現在集めた保険料を現在退職している人々の年金給付財源にすることでインフレの影響はありません。ただし、これは進行変動の影響は非常に大きい。つまり、団塊の世代に対し給付をする時に、その時に納める現役世代の数が減っていると保険料をかなり大幅に上げないと維持できない。だから世代間の不公平の問題が出てきます。 日本の場合は、発足の時は積み立て方式で始めた。それが積み立て方式では財源が厳しくなってきて、修正積立方式、賦課方式と積立方式の中間です。そして、賦課方式へとやがて変ってきたわけです。 日本の社会保障関係費が約18兆円あります。国の予算が82兆円です。国債の返済に約2割、地方に約2割回しますから、国が使えるのは6割しかありません。一般会計予算の3分の1位は社会保障関連が最大の項目です。その半分が年金関係です。52.4%ですから、これが非常に大きい。これをどうするかが、大問題だといえます。 日本の公的年金制度はどうなっているか、どんな問題点があるか。制度の沿革を見てみますと、年金制度ができたのは歴史は古く明治時代に官吏の恩給制度としてスタートしています。 この制度ができたのが、高度成長の時期だということに注目いただきたい。これ以降、何回も改革が行われて給付水準を引き上げて、制度の早期成熟化が行われました。 また、20歳から払い始めて40年、60歳になったら年金を支給しますというのが、今の基礎年金ですが、成立の時に既に40歳になっていた、50歳になっていたという人もいますから、そこで特例で早く年金を貰えるようにする。給付を実質上緩やかにする。そうすると、段々、財源的に厳しくなります。また、経済成長率が低迷して、所得の一定割合、保険料が減ってしまいますから、仕方なく積み立て方式を変えて、修正積み立て方式にする。そして賦課方式にして、今、入った保険料を退職して人の年金財源にするというように変ってきたわけです。 1994年には支給開始年齢を65歳に徐々に引き上げる決定がなされました。前回の改定では厚生年金の給付水準を5%引き下げ、56歳以降の年金スライドの凍結などが行われています。 第33回講演(3ページへつづく) |