第33回
2004.4.13 シャトレー・イン横浜
東海大学政治経済学部
教授 島 和俊 先生


第33回講演(1/4ページ)

 

「どうなる年金」
 
年金は大丈夫か、個人、企業の負担はどうなる。

 

 私は東海大学で財政学を教えています。研究テーマは政府の経済的役割は何か。或いは政府は何をどれだけなすべきか、という関心を持って研究を続けています。財政学では政府はどの程度のサービスを提供すべきか。そして費用を租税、社会保険料等で何処からどれだけ負担して貰うか、という問題があります。それに関連して、いろいろな経済政策がでてきます。

 以前は社会主義と資本主義の比較研究が中心でしたが、制度の違いが何処からでているか、西側諸国でもいろいろな制度があります。この制度を見ると、国民がどのくらい負担して、政府にどのくらいの仕事をして貰うかという考え方の違いがでてきます。そういうところから比較制度論、比較制度分析を研究テーマとしています。
 具体的な例の一つとして社会保障があります。租税や社会保険料の費用負担、これと政府サービスの関係が明らかになるわけで、スウェーデンのような国は大きな政府ということで、国民負担率が70%、年齢によっては75%となっています。その代わり非常に大きなサービスを提供しています。

 他方、アメリカは社会保障の面ではできるだけ最低限は押さえていますが、後は自分でやりなさいということで、年金でいうと401Kがあります。
 会社が従業員からお金を預かって運用しますが、株と投資信託と銀行預金と、どうするかを従業員に選ばせます。そのかわり結果がどうでても本人の責任です。このような選択をすると国の役割は小さくてすみます。試行錯誤をしながらやっていくしかありません。

 年金は大丈夫か、個人、企業の負担はどうなるか。この観点からまず見ていきます。生命保険文化センターが首都圏の30歳から59歳の男女2150人に「現在と将来で不安を感じるものは何か」に対するアンケートを実施し、複数回答で答えて貰っています。それによると、1番が「公的年金の給付額の減少」で79%。2番目が「公的年金制度の破たん」で63%。3番目が「老後の生活資金準備」で56%。これらは、すべて老後の生活不安に結びつきます。とりわけ、生活で柱となる所得保障が徹底するかどうかというところに行き着きます。

 普通、このような調査をすると、景気が悪いといわれていますから、リストラの不安とか、現在のもっと身近な問題が出てきそうなのですが、実態としては今よりも将来の生活に対する不安が多いことが分かります。

 公的年金制度がどうなるか、或いは最終的にはどうすべきかという問題を考えていきたいと思います。いま、政府と民主党が改革案を出しています。そこに至るまでの公的年金のあり方、問題点をみた後で分析すべきです。政策とは急にポンと出てくるものではなく過去の経緯があります。その辺を踏まえて見ていかなくてはなりません。

 まず公的年金制度の維持ですが、公的年金制度は最低生活水準を維持するための所得保障を行うものです。憲法25条に「建康で文化的な最低限度の生活云々」という文言がありますが、時代によっても社会状況によってもどれくらいが最低限度かは違ってきます。しかしながら、所得がなければ人は生活費を賄えません。最低限度の生活水準は社会保障面からみると、この他に医療保障や介護を含む福祉サービスも必要です。

 医療保障は病気になった人を対象に行われます。介護、福祉は特約が必要のある人が対象になります。しかし、誰でも歳をとったら「所得保障」が問題になってきます。そういう意味では最も基本となるものであるということがいえます。

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