第27回講演(3/4ページ)

 

 赤字決算を続けている銀行が納めすぎている繰り延べ資産を自己資本に評価することは、できそうもないことをいっているに過ぎない。しかも日本の場合繰り延べ資産は5年前までさかのぼっての返済が可能だ。自己資本にこれも入れている。これらを剥がすと国際水準でやっていけるような状態ではないという評価がされているようだ。

 アメリカの株価がよくなり、空売り規制がなくなって少し株価がよくなった。これで含み損がなくなるので自己資本が減らなくて済む。1兆3千億円くらいになる。この結果、一番多くてみずほブループで含み損が7千6百億円。次ぎに三菱住友で5千億円。3月末の日経平均1万5百円くらいだが、これでこのくらいの含み損がでたということだ。

 株価の動向で、いつ自己資本が足りない状況が起こってくるかもわからない。この危うい状態はまだまだ続く。10%の自己資本があるから健全だとはとてもいえないということだ。安心して預金を預けられない。銀行も融資を簡単にできそうもない。日本の金融はすぐには回復しそうにない。

 それならどうすればいいか。本来なら、不良債権をきちんと処理してオフバランス化する必要がある。国民は銀行に公的資金を投入することには反対なようだ。住専の時に、住専は潰してもいいが、そこに貸し込んでいる農協は救わなければならない。あのときは6千850億円だったと思うが、それに比べたら、今はケタが違う。大騒ぎをしたあの時が、ボタンの掛け違いの出発点だったと思う。

 銀行の経営責任を追及しなければいけない。このようなことが議論にでてきた。この二つがネックになって不良債権を完全に処理するために、大手銀行に公的資金を入れるのが難しい状態になっている。

 金融危機回避勘定15兆円がある。これが公的資金投入枠になっているが、金融システムが危なくなり、大手銀行が破たんしそうになって波及しそうだという状態になり初めて発効させるもので、申請方式だから自己申請しない限り10%で大丈夫だという銀行に投入することは現段階ではできそうにない。まして銀行は経営者責任を取らされるのであればなおさらだ。

 それ以外に、整理回収機構の不良債権の買い上げがある。時価での買い上げでは銀行にとって何の助けにもならない。簿価だと同じように公的資金の注入が必要になる。これには反対ということになる。あるいは株式で償却すると、持ってる自己資本が乏しく、その中から株式を減資することになる。公的資金が入っているのでそれまで減資することになれば、「あれは返してもらえるはずではなかったでしょうが」という反対がでてくる。これも難しい。また、銀行も優先株に配当する約束ができなくなる。準・国営銀行になってしまう。

 公的資金の注入で抜本的に不良債権を処理する方法は見えそうにない。そうなれば時間をかけて我慢しながら少しずつやっていく。その間、株価の上がり下がりで一喜一憂して半年ごとに大丈夫かと心配しながらいくより仕方ない。このようになってしまう。

 そもそも金融の自由化は1980年代ころからやっていたのにうまくいかなかった。このことが根っ子にあると思う。1990年代は経済のグローバル化とIT化が盛んにいわれた時期である。この10年間に6%くらいの世界経済の成長があった。国際金融取引はその2倍くらいの成長があった。さらに直接投資部分には速い成長があった。その結果として債券とか証券がさまざまな人の手に入り、投資に巻き込まれるようになった。しかし、日本はそうならなかった。

 家庭は銀行に預金をして、銀行は企業に融資をしてカネが回っていく仕組みになっていた。それが変わってきた。金融自由化の中で間接金融の割合が下がってきた。これは世界の趨勢だが、日本はこの10年間でますます間接金融の割合が大きくなってしまった。

 個人の投資家が株式とか投資信託を持っている。このような方向で進んでいるはずだった。あるいは年金とか保険も拡充して確定拠出型になってきて、自分たちが選べるような仕組みになるはずであった。他の国はそのようになっている。株は下がる、投資信託の心配だと、結局現金預金が多くなって債券類が減ってしまう。
 間接金融がなおっていないが、大手企業だけは金融の自由化を享受し始めている。自分たちがエクイティファイナンスを始めた。時価で株式を発行する。社債を発行する。コマーシャルペーパーを発行する。直接、マーケットから資金を調達するようになった。

 銀行は大手の企業への融資で商売していたが、それができなくなってきた。他方、金利は自由化されてきた。調達金利が上がる中で貸出し先の大手の企業がなくなってきた。危ない貸出し先に融資がされていくのが不良債権の出発点であった。

 日本の金融自由化は極めて変則的である。これが銀行の構造をいびつな形にしてしまった。結果的に4業種に過剰な融資をしてしまったといわざるをえない。バブルの崩壊で家庭の資金はなるべくリスクの少ない預金へ、郵貯へとなっていった。

 銀行は融資を回収し始めた。従ってこれからは株式や債券の購入より国債だということで銀行は集めたカネを国債の購入に充てている。もともと民間金融機関は国債の保有残高は多かった。10年たった今はさらに増えた。海外では日本の国債を嫌い始めている。郵貯、資金運用部、銀行が国債を持っているが、1千4百兆円の個人金融資産が国債に回っていることになる。国債が暴落する心配がないといっているのは、運用しようと思っても、国内ではこれ以上安全で多少利息がつくものはない。このような理屈である。本当にそうかは意見が分かれるところだが、簡単に安心はできないと思っている。

 バブル崩壊で銀行は融資をやめて国債を買うようになってしまった。大企業は直接資金調達するようになって、むしろバランスシートを調節して返済できる企業は返済し始めた。しかし、中小企業はそうはいかない。銀行の貸しはがしにあって苦境に陥っている。
 不況が長引いているのは、本来なら中小企業が元気になって資金が回っていく側面があるのだが、これが極めて厳しい状態になっているのが原因だ。

 不良債権の最終処理は一挙にはいかない。時間がかかる。その間にいくつかのいろいろな問題がでてくる。本来、銀行は金融仲介の役割を果たすのに国債を買っている。では、国債を個人が買えばいいではないかといわれるが、そのようになっていない。このような形が景気回復の障害になっている。だが、不良債権を徐々に処理していかなければならないとすれば、その間に起こりそうなリスクをなるべく排除しておかないと、日本の景気は回復しないということになる。

 いいニュースは結構ある。アメリカの景気がよくなってきた。半導体の価格が上がってきた。液晶パネルも1ヶ月待たないと手に入らなくなった。ITのコメの部分がよくなると、効果はいろいろなところに波及してきてくる。中倒れしないかがひとつの心配ではあるが、おそらく大丈夫であろう。
 心配は中東情勢だ。イラクが原油の禁止をいいだした。イラクは2百万バーレルくらいを輸出しているといわれているが、今、世界には7百万バーレルくらい余っている。イラク一国ではさほどの心配はない。景気がよくなれば、需給はひっ迫してくるからどうなるかわからない。いつもこの手の話はある。

 アメリカの景気回復は、グリーンスパンも慎重だから段々よくなっていくだろう。日本のIT関連産業が復活してくる。さらには製造業に波及してくることが起こるだろう。ただ、V字型の回復にはならないだろうといわれている。

 このような、良い芽を大事に育てていかなければならない。小泉内閣は構造改革を「さあやる」といいながらいつやるか。どうも規制緩和の部分がはっきりしてこない。景気の支えにはIT関連部分、それに関係する部分を先行して規制緩和をやったほうがいい。多少フライングがあってもやってしまう。そのほうが景気回復のつなぎになると思っている。

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