第27回講演(4/4ページ)
財政緩和は簡単にはいかない。30兆円枠が今年度国債発行枠として昨年の補正予算で付いた。これはこれでいいと思う。いつになったら赤字の垂れ流しが止められるのか、もう止められないのではないか。日本はもう駄目だという評価すらある。何で30兆円なのか根拠はわからないが、それなりのメッセージにはなった。しかし、来年度はこれを守れそうにない。景気の動向にもよるが財政赤字の止めを形として作っていかないと、外からの評価が遅れてしまう。 公共投資を拡充しようとすることはやめたほうがいい。過去25年間、石油危機以降ではかってみても公共投資が増えたから景気がよくなったというよりも、日銀がマネーサプライを増やしたから景気がよくなったという実証経緯が最近でてきている。もはや、財政が景気をよくする時代は日本でもいえなくなった。日本でもというのは他に国ではもうやっていない。ヨーロッパはEU統合になって、いかに失業率が10%になろうとも、マイナス成長になろうと、財政赤字は減らすというスタンスを5、6年貫いてきた。何処も財政赤字を縮小した。日本だけができていない。 では、財政が駄目なら金融はどうか。1999年3月に日銀はゼロ金利政策を実施した。これはそれなりに評価されたが、1年少しでやめてしまった。途端にうまくいかなくなってしまった。そして昨年の3月には金利はもはや動かせないから量的緩和を行った。いやいやながらであったが、量的緩和はさまざまに増えていった。その結果、昨年9月ころから現金、銀行の日銀に預けたカネが急速に増えた。1年前から比べると3割くらい増えた。しかし、マネーサプライは3%台。多少は加速しているがまだまだ。 ベースマネーはかなりのスピードで増えているから、経験的にみて、半年から1年たつとマネーサプライに波及してくる。そしてマネーサプライの上昇が、実は名目成長率に効いているというのが最近わかってきた。これが景気をプラスの方向に向かわせるのではないかと期待されている。消費者物価上昇率が9月になるまではこれを続けるといっている。 日銀は「社債も買いましょう」あるいは「為替に直接買いにいきましょう」「株まで買っちゃいましょう」「土地も買おう」こんなことになれば、確かにマネーサプライは増えてくることになる。そこまでは日銀は絶対にやりたくないといっているが、それに類することは結構やっている。不動産証券を担保として融資することもできるなんていっている。段々、日銀は「いやだ」といいながら、方向は長期の資金がうまく流れるようにマネーサプライをコントロールするようにみえる。 不良債権処理する2、3年は急に景気はよくならない。日本の雇用は悪いと見えるが、他の国に比べると雇用の整備が進まない状態になってしまっている。1990年代当初、日本を含めてどの国もバブル崩壊を経験している。有名なのはスウェーデンだ。その時、雇用が一番大きな影響を受けた。20から30%の失業率が一時的にあった。日本はそこまではいかないが、しかし、これがずーと足を引っ張っている。 人件費比率が日本ではどんどん上がってきている。その結果、生産性が下がる。この問題は避けては通れない。生産性の上がらないところが人員を整理する。失業者が増える。この失業を吸収するメカニズムを作らなければならない。ベンチャーなどに雇用が流動化しなければならない。どうやら緊急避難型のワークシェアリングが動きそうだ。雇いやすいことを考えると、当面はそれも仕方ないのかも知れない。 失業してしまった人に手厚い対策が必要だ。今でも45歳以上の人を雇用すると補助金がでるというのもある。しかし、その使われ方が生産性部門に安いコストで中高年雇用が存続するという仕組みで使われてしまっては構造転換にはならない。雇用の流動性を高める方向で雇用対策が行われなければいけない。生産性の上がる分野に人が集まる仕組みの中で考えていかなければならない。 特別検査は大手が終ったら今度は中小企業の番だ。中小企業に資金が回らなくなると新しい産業は育たない。このことをきちんと考えていかなくてはならない。銀行は選別をしてくる。そして、できれば融資を回収していく方向になっていくだろう。そうすると、税金で持っていかれると損だから利益をあげないようにしようという態度は改めていかざるを得なくなる。どうしても経営内容の改善が必要になってくる。 融資一辺倒から多様な資金調達が必要になる。長期に考えれば4大銀行を含めては新しく芽がでるような中小企業を相手にすることを考えなければならなくなる。もしかすると、メガバンクは4つも必要ないかも知れない。 中小企業に対する十分な情報がない。すでに不況業種で失敗しているから変な融資はできない。小さいところをひとつひとつ調査するのは無理だ。そうすると、統計的なデータで貸し方を考える方向に進んで行かざるを得なくなるのではないか。業種、産業ごとに財務内容、倒産、債権回収情報などストックする。これを国がやるといったら問題になる。仮に業界でもいい、ストックする。産業別でみると、この企業はどの部分に位置するという情報を持っておいて、これを前提に融資をする仕組みを作る。また、企業に貸すというよりプロジェクトに融資する。統計的に倒産指数を推定しながら資金を貸していく仕組みが、特に中小企業対応として貸し方の方からもでてくる。 担保物件も不動産に限らず、売掛金などにも拡大していく。諸外国ではすでに実施しているが、不動産ほど危ないものはないという考えがある。すぐに現金化できないし価格も一定しないという議論がある。 日本経済の活力はまだある。金融の自由化をやっていかないと日本のいいところは出てこない。中小企業の貸付は証券化していって、マーケットを拡充していく。このような方法で市場を活性化させていくことが必要だ。他方でこのようなことをしながら、他方では不良債権を処理しなければならない。大変だがこれをやらないと日本の金融システムはいつまでたってもうまくいかない。うまくいったとしても、中小企業の活力がまったくなくなってしまう。競争力も上がらない。 中小企業金融には別の側面がある。日本の金融市場の大きな問題に公的金融がある。郵貯は公社化されるが、将来的には公社ではすまないと思う。すぐに民営化とは思わない。むしろ金融市場の大騒ぎの中で郵貯が残っていたから国民は安心して預金していた。もし、郵貯が民営化されるとしたら国民は何処へカネをもってっいったらいいかわからない。国民の1千4百兆円は外国にいってしまう。国債は暴落、円も暴落となる。併せて、中小企業はうまくいかなくなって空洞化すると、輸出輸入でも黒字が超過しなくなってしまう。そうなると円安は本当に起こってしまう。これは最悪のシナリオだ。将来的には公的金融機関が集めたカネの持って行き場がなくなってしまう。 今回の不良債権問題で中小の金融機関が破たんした部分を公的金融機関が肩代わりしている。中小企業に対する金融機関のノウハウを公的金融機関も付けているかも知れない。この部分が郵貯と一緒になって、入口と出口が一緒になって、さらに民営化ということになれば日本型のもう少し新しい金融システムができ上がってくる素地があるような気がする。 2年3年は我慢が続くが、景気を支えながら特に日銀は国債の暴落を抑え、財政は大きな赤字をつくらないようにして、しかも雇用のセーフティーネットはつくっていく。これがうまくいけば3%くらいに景気を維持することができるし、国際競争力が持てて、少子高齢化がきても豊かな社会ができると思う。 小泉政権は構造改革ができるのかということだが、悲観的に見ている。小泉首相が悪いというのではなくて、同じ政権担当政党がやっている内閣では無理だ。思い切って利権を切ることが難しいことは道路公団の問題でもわかったような気がする。利権を切り、思い切った構造改革をするには多少乱暴なことができるようにならなくてはいけない。政権交代を機能的に行うには必要ではないかと思う。すぐに小泉内閣が倒れるようだと危険であることがわかる。構造改革が進んでいくようであればいいが、国民がしがらみのない政権に担当させる方向を思うなら、まだまだいったりきたりしないと大きな改革は難しいのかなと思う。
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