第27回講演(2/4ページ)

 

 金融庁の特別検査が大手行に入った。先日、その結果が発表された。詳しい内容は明らかではないが、思った以上に不良債権があることがわかった。しかし、それは4月に入ってのもので、ペイオフ前の3月迄の情報がない。預金は小さなところより大きなところへ入ってしまう。あるいは、郵便貯金に入ってしまう。

 4月に入ると、大きいから必ずしもいいとはいえないことがわかってきた。大きい銀行は引き落としを二度させられてしまうかも知れないなど、笑えない状態が起きた。とりあえず、みずほ銀行以外はさほどの混乱もなく済んだようだ。

 十分な情報を持った状態でのペイオフ解禁ではなかった。これにはどのように対応したらいいかわからない状態だ。多くの預金者は1年間は大丈夫と思っている。しかし、来年の3月の方が大きな動きが出てくるかも知れない。
 今回、普通預金が1ヶ月で28%増えて、定期預金が5%程度減ったという。小さなところから大きなところへシフトしたといったがこの部分は3%程度で済んだようだ。普通預金ならまだ大丈夫という考えがあったからかも知れない。

 3月危機といわれた動きの中で、「潰れた大手銀行はなかった」と塩川財務大臣も柳沢金融相もいっている。3月危機とはどういうシナリオを描いていたのか。不況4業種といわれる不動産、卸小売り、建設、ノンバンク。これらに大手銀行は大きなカネを貸し込んでいて、ゼネコンが潰れる。マイカルが破たんする。この状態でバタバタ潰れていくと株式市場で連鎖的な暴落が起こるのではないか懸念した。

 銀行は多くの株式を持っている。これを自己資本に組み入れることができる。しかし、3割くらいを組み入れてしまうと自己資本を低く評価しなければならない。有価証券の含み損を2月の段階でみると4兆から5兆円くらいになるのではと心配していた。自己資本を守ってマーケットで評価されるためには、何とかして含み損を回復しなければならない。法定準備金を減らすとか、株式を減資するとかしなければならない。そうすると、銀行株は急落してしまう。これが預金者に響いて預金の引き出しが起きる。このような流れが起こってくるかも知れない。

 第一地銀の中部銀行が破たんした時点では資産が超過していた。金融庁からは昨年、自己資本を増やせと指示されていた。努力したが、うまくいっていないという情報が流れて、その結果預金が流出していった。資金繰りがうまくいかず破たんした。流動性危機がこのような仕組みで起こった。不況業種が軒並みこのようになれば、貸し込んでいる大手銀行もうまくいかなくなって預金が引き出されて流動性危機が起こる。このようなシナリオがあった。しかし、そうはならなかった。

 それはまず、アメリカの景気回復があった。9・11テロの時、景気回復は来年の後半と予想していた。ところが、今年の1月から回復のスピードが上がった。株も上がった。グリーンスパンが金利は当面上げないといった。そうしたらどういうわけか、アメリカの株価は下がってしまった。グリーンスパンは慎重だがアメリカの景気はよくなっている。そうすると株価が上がる。それにつられて日本の株も上がってくる。

 今年の2月、日本の銀行の保有株式の含み損は4兆から5兆円であった。それが今回、1兆3千億円くらいに圧縮できた。資産が3兆円くらい増えるということになる。これはいいことだ。しかし、必ずしもいいことといえないのが2つばかりある。
 ひとつは株式の空売り規制だ。昨年、株価が下がったとき法人投資家が空売りをした。これは違法ではないがこれができない仕組みを作ってしまった。これは人為的にマーケットを操作したことになる。
 もう一つはダイエーの支援があった。マイカルもそごうも破たんした。3番目はダイエーといわれた。融資額は2兆円といわれていた。もしもダイエーが破たんしたらマーケットにも雇用などにも大きな影響がでる。
 きちんとした言明はないが、政府は関係銀行に支援するように要請したようだ。それは銀行の支援がいやいやなところが見受けられたからだ。結局、最後には5千4百億円の債権放棄がなされた。
 このあたありから、政府は不良債権を本気で処理する気があるのかとの評価がマーケットに流れ始めた。
 検査と監督は分けたほうがいいと思うが、金融庁の特別検査は一応クリアした。

 国際業務に携わる銀行は自己資本比率8%、国内は4%ということになっている。国際業務の銀行はおおむね10%くらいで並んでいる。「株価に大きな差があるのに、何で自己資本比率は同じなのか」と噛みついているニュースキャスターがいたが、そうかも知れない。

 金融庁の特別検査の結果、全体は出た。細かい数字はこれからだが、半年前の9月期の不良債権の状況は全銀行で36兆8千億円くらいとなっている。都銀関係では22兆4千億円、それが今回24兆円くらいに増えたようだ。

 不良債権処理を何年か前からやっているが、これが信用されない理由がいくつかある。
 ひとつは債務者区分がある。マイカルは不良債権分類で見ると要注意先債権になっていてリスク管理債権までにはなっていなかった。経営状態はあまり良くないが黒字であって、債務を返済しているところに対する債権は、注意は必要だが不良債権とは見ないという格付けであった。ところが、マイカルは破たんした。返済できそうもないところには利子返済のためにさらに追い貸しをしていることがわかってきた。不良債権区分にはなっていないことがわかってきた。

 この不良債権区分でいくと、利益のあがっていない会社は自動的に不良債権になってしまう。利益のあがっていないところでみると中小企業がある。日本の企業は数で見ると大部分が中小企業だ。この7割が利益をあげていない。ここに貸している債権は全部不良債権になってしまう。銀行は不良債権を減らすために貸しはがしをすることになり、社会問題となっている。これを回収して不良債権区分上の債権を減らしたところで、実際は銀行の経営にとっては大きな問題ではない。むしろ、問題は大手企業のうまくいっていないところに対する貸し出しだ。しかし、大きすぎて潰せない。これが夏に、大手30社問題といわれてリストまで出回った。

 百億円以上貸し出ししているところの状態をもう一回見ようということで、昨年10月末から金融庁の特別検査が入った。銀行は半年ごとに不良債権処理をよくやっているように見えるが、減らすとまた同じくらいの不良債権がでてくる。全体としてはいつまでたっても減らない状態が続いている。昨年3月期で新たに3兆4千億円、9月期で2兆6千億円、半年間で約3兆円くらいの不良債権が新たにできてしまった。今回は厳格な査定をしているので、かなりな額がでてしまう。
 結果、今年3月には24兆円くらいの不良債権であって、半年前より2倍くらいに増えている。処理損はさらに増えて、当初予想の4倍くらいになり、7兆8千億円といわれている。

 金融庁は4大銀行の自己資本比率は10%程度と発表した。これは誰も信じていない。ひとつは、債権区分が甘いということ。さらにもう一つは国は東京三菱を除いて大手銀行に公的資金を投入している。自行の体力で自己資本をもっているものではないという評価がある。
 もう一つは繰り延べ税金資産だ。貸し倒れが起きても融資先が法的に整理されなければ貸し倒れと認定されない。利益の中に計上されて税金をとられてしまう。そのうち、その融資先が法的に整理されれば、正式に貸し倒れとなり税金として納めた分は返ってくる。ただし、返ってくるのは将来、銀行が黒字になり利益をだしている時に限るということになっている。

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