第26回講演2(2/3ページ)

 

 私は今回のテロでいろいろなテレビ番組に出演したが、出演は深夜があって朝があって、これが非常につらい。仕事が切れた間をぬって寝るという、殆ど寝ないに等しい地獄のような状態が一カ月くらい続いた。それでも、政府だけの意見ではなくて他の意見も流そうと言うことになった。最初は某政党からも圧力のようなものもあたが、テレビ局も覚悟を決めて「この人(私のこと)は胸には国会議員バッジを付けているが、東海大学の教授で危機管理の専門家だ」と言って、何とか頑張ってテレビ出演をこなした。

 電車などに乗っていると女子学生がテロの話をしている。「毎日テレビを観ていると、上品なビンラディンと下品なブッシュという気がする」と言う。映像を観ている限りブッシュ大統領が「これは戦争だ。生きても死んでもいいからビンラディンを連れてこい」と言う。一方でビンラディンが原爆の話など、世界の矛盾の話をすると、そちらの方が偉いような感じを与えてしまう。何とも恐ろしい映像の力で思いもできない効果が生まれている。

 或る時、8チャンネルでキャスターの小倉さんが「オサマ・ビンラディンは目がきれいですね」と口にした。本当は司会者がそんなことを言ってはいけない。彼はそれに気付いて「と、言うことを首藤さんが話していたんですよ」と隣にいる私にすり替えられてしまった。こんな裏話がある。

 このように、実際に映像に出てくると極悪非道、獣畜生でもそれなりの主張があって、サウジの豊かな生活を捨てて、アフガニスタンのために活動していると、そんなイメージが伝わってきてしまう。映像は恐ろしいものだと思う。

 これからも分かるように、これからの世界はどちらが正しいか分からない。自分で判断していく必要がある。情報をどのようにして分析するか、これからは既成の方式ではなく人間の英知と鍛えられた常識が重要になってくる。どんな映像を見せられても「そんなことはない」と見抜ける確かな判断力が必要になってくる。この気持ちが重要だ。

 今、タリバンが敗北して撤退している。北部同盟が入ってくる。そうすると女性はみんなかぶり物をとって歓迎する。これを観て「戦争が終ってみんな喜んでいる」と思う日本人は少ない。嘘だということを見抜く、それだけ日本人は賢くなっている。北部同盟が入ってきて心から喜ぶ人など誰もいない。当初、北部同盟こそが余りに酷いので、それに対抗するためにタリバンという神学生が立ち上がってアフガン住民を助けた。このことはメディアなどを通して知られている。
 北部のラバニ大統領などが虐殺した人の数などは数えきれない。マスード将軍も暗殺されて英雄になったが、かなりの人を虐殺している。
 部族ごとの殺し合いになってしまったことで、単に兵士を殺すだけではなく、とことん根絶やしにする。子どもの首を切って並べておく、女の死体を吊り下げておくとか、ひどいことをしている。何千何万人と殺されたところへ、これを救おうと立ち上がったのがタリバンだ。確かに悪いことをしたが、それはそれなりの理由があった。それゆえに、タリバン政権は浸透して行った。

 話は変わるが、このことから考えると日本の世論調査はでたらめだ。今日の新聞で、小泉政権の支持率が8割を超したと報じらた。構造改革を評価している数字だと言う。しかし、構造改革が多くの問題を先送りしていることを見抜けば分かることで、こんなことで騙されてはいけない。

 私は、ビンラディンに興味を持った。それは、私がサウジの大学に組織論、経営学を教えに行っていたその大学の経営学科にビンラディンがいた。学生は裕福でみんな英知に溢れる若者たちだ。授業が終ると学生たちの話題は「なぜ我々はこんなにひどい状況にあるか」と言う話をしている。「確かにカネは持っている。このカネの源泉は石油だ。しかし、これもすぐになくなるだろう。我々の子どもたちの将来はどうする。カネを持っていながらどうしてバカにされるのか。17世紀くらいまでは西欧の文明よりずっと先を行っていた。どうしてイスラム文明がこんなに卑しい社会になってしまったのか」と。

 毎日、彼らとこのような話をしていて「このような社会を捨てて、とにかく新しい社会へ行きたい」と言う。その時私は「そんなものかな」くらいに聞いていた。私が教えていたころは既にビンラディンは居らず、本人と会うことはなかったが、このようなタイプの人間はいっぱいいるんだと改めて思っている。

 テロリズムは、実は時代時代の抱えた様々な問題で、その時の叫び声だ。テロを分析していくと、その時代の社会の歪みがよく分かる。社会学者としては、尽きせぬ魅力あるテーマだ。

 アルカイダはただひたすら穴蔵に閉じこもる。、その上をB-52が激しい空爆を続ける、なぜか。それは二度と地上に出てこないようにみんな生き埋めにしている。ビンラディンを見つけ出すためと言っているが、実はみんな生き埋めにしようとしている。

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