第25回講演(2/4ページ)

 

 今、構造改革と言われているのは、これでは日本経済は活性化しないから、この認識に基づいて外科手術をするということになってくる。手術をすれば当然血がでてくる。痛い。構造改革は日本経済の根底にあるところを手術して直すことだ。薬の投与では間に合わないということだ。

 構造改革の特長は経済システムの根幹に立ち入るということだ。この政策を今回のように大規模に行おうとしたことはない。画期的なことで、私も大変評価している。「骨太の方針」と、言っているが果たしてそうなのか。私の感覚から言えば「骨太」でなければ実施できないということだ。

 政策の決定プロセスが従来の自民党型の利害調整をしながらではなく、小泉内閣が自らプログラムを立てて強いリーダーシップの基で実施していこうとするものだ。善し悪しは別にして、新しいタイプの政策運営をしていると言える。実際に内閣府が設置され、あらゆる省庁の上に位置し、それだけ強いリーダーシップを発揮できるようになっている。取り組みのシステムは従来のやり方とは違っている。この点は評価できる。

 構造改革は本当にできるのか。特殊法人の整理統合についてはゼロ回答をしてきている。つまり、特殊法人は存続の価値があるという回答だ。この点では小泉改革は頓挫していると言われている。また、他の分野についても難しい問題がたくさん出てくる。その中でも不良債権はとりわけ大変で、これだけで博士論文ができるくらいだ。数字の上だけでなく、日本人特有の解決方法など様々だ。率直に言ってしまえば「先送りの哲学、責任回避」などが見え隠れしてくる。本来なら不良債権の処理は徹底して実行すべきだが、私の印象では緩慢に行われている。緩慢に行われれば景気はさらに悪くなってしまう。担保価値は下がる一方で、不良債権は増える。景気が落ち込めば落ち込むほど不良債権は増えるということだ。時期をみて一挙に処理しないと意味がなくなってしまう。

 構造改革の名の下で行われているものは様々なものがある。郵政の民営化、社会保障制度の問題、地方交付税交付金、さらには社会資本の整備、充実、道路公団、教育などなど。これらの改革が成功するかしないかは全くの未知数であると私は思っている。

 構造改革を進めると景気はもっと悪くなるのではと懸念される。実際にその通りになるだろう。小泉内閣もそれを認めているから、痛みを分かち合おうと言っている。民間調査機関によると約100万人の失業者がでると予測している。中小企業も倒産する。これに対して政府はそんなにひどくはないと言っている。せいぜい悪くて5から60万、よくすれば20万程度だと言っている。私はどちらもいい加減な数字ではないと思っている。どちらも厳密に計算してこれだけの違いがでてくる。撹乱要因があって民間調査機関も政府も把握できな
いのが現実だ。これは非難できないと思う。ましてや、先日起きた米国テロの経済的影響度をみると日本経済に対しては不況対策を何とかすると言っている小泉内閣にすれば、非常に大きなインパクトになるに違いない。特に日本は対米輸出国だ。輸出が滞ることが当然予想される。これが切っ掛けとなって不況がさらに深刻が増すことが考えられる。

 景気が悪くなっても構造改革を断行するのか。私は経済学者であるが大変に難しい問題だ。考え方だけを話して許しを請うことになると思う。私は小泉首相と同じ考えを持っている。今やらなければ不況はさらにひどくなるという考えだ。

 不況は覚悟して受入れざるを得ない。しかし、構造改革が半分くらいできれば日本経済の復活の兆しを見ることができる。逆に言うと、もし今、構造改革をしなければいくら景気対策をとっても、金利を引き下げても一時的にはよくなるかも知れないが、先には暗雲が立ちこめて日本経済の実力がだしきれない。ますます税金を景気対策に投入してしまうことになる。
 小渕・元首相が景気対策として公共投資した時も、何の効果も得られず、日本経済を活性化させるに至らなかったわけだ。それは何を意味するかといえば、こういうことをやっていては日本経済はやっていかれないと言うことだ。
 民間の企業が元気をだして、将来に希望を持って投資をしていくか。消費も大切だが、消費者はなかなか財布のヒモを緩めない。今回の米国テロでも消費マインドはグーンと落ち込んだ。しかし、企業の設備投資はこういうものとは違う。今の問題ではなく先の見通しを立てて設備を整える。生産設備を蓄積するものだ。景気経済がよくなるかの指標を企業の設備投資に注目している。小渕政権は国民の税金を遣ったわけだが企業の設備投資を増やす事にはつながってこない。それなら経済の病巣を取る外科的手術をしなければならない。

 景気が先か構造改革が先かを問えば、構造改革が先になる。経済学者の一部には一緒にやるという考えの人もいる。スウェーデン、ノルウェーなどの北欧の国は一緒にやって成功している。日本、アメリカ、イギリスなどと意思決定の違いがある。政府の強いリーダーシップのもとに企業、労働者、消費者がじっくり話し合ってコンセンサスを得て実施する政策を取っている。日本、アメリカ、イギリスのような極端な方向づけを取らない。これは小さい国ならできる。ニュージーランドもこのような成功部類に入るかも知れない。
 アメリカ、イギリスはレーガン、サッチャーのように強行に規制緩和を行った。評価はいろいろあるが、イギリスのブレアはサッチャーのやり方を踏襲しているわけで、これは正しかったということになる。レーガン大統領もその後アメリカの活性化につながった。しかし、北欧、ヨーロッパ、アメリカと成功はしたが改革のやり方がそれぞれ違っている。

 景気が先か構造改革が先かという捉え方は恐らくしない。それが、政策運営できる強みだと思う。日本も含めてアメリカのような政策を採るのは極端だ。非常に強硬なシステムだ。そして一部ではあるがアメリカではこれを非常に強く評価する人たちがいる。極端な政策プロセスと理解していい。このために景気が先か構造改革が先かの問題が出てきてしまう。一か八かの政策を平気で採る。 このように私は思っている。またこれを実験として考えている。もし駄目ならば他のやり方を後からすればいい。ある意味では若々しい考え方をしている。

 カリフォルニアの電力事件をみても、停電が平気で起こる。政府の規制委員会による電力供給のシステムは間違っていたと言って、平気でそれを改めようとする。これをアメリカはできる。日本もそれに追随はしているとは言えないが、大きな影響を受けている。このために景気が先か構造改革が先かの問題がでてきてしまう。この点は不幸な政策プロセスであり政治風土が感じられる。極端な言い方をしたが、私は小泉内閣の構造改革を少し見てみようという気になっている。

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