第19回講演(2/6ページ)

 

●特異技術、新しい技術が企業の質を高めていく
 産学連携とは、産、官、学というようなことです。
 今、産業界は国際化しています。分業も含めてボーダレス化、グローバル化しています。先日ASEANがありましたが、アメリカのマネーゲームで大量の資金をドンと入れてサーッと引き上げるようなことをすれば開発途上国なんてアッという間になくなってしまいます。こういう中で日本も波をかぶったわけですが、理屈ではなくて企業は明日をどう生きていくかが経営の重要なポイントなんです。
 例えば、アジア諸国の通貨下落で輸入商品は安くなりました。しかし、韓国、台湾、東南アジアの企業は我慢はしてても輸出はしているんです。我慢の度合いは貧困の度合いに比例するかも知れません。
 米国発のマネーゲーム、こんなものに振り回されているようでは大変で、一社一社が生き残るにはどうしたらいいかということです。同じ技術レベルでいつまでも闘えるものではないんです。スポーツも同じです。質の高い独自の技術を養成する必要があるかといった時に、自分の特異技術に固執する必要はないんです。しかし、特異技術がなければ次の段階の高い技術も出てきません。
 700数10件と契約させて頂いていますが、今、大企業は殆ど契約にきません。むしろ、中小零細の非常に元気ある社長さんが直接くるんです。今、景気悪いと言っていますが、実は、そういうところは動いているんです。しかし、5年、10年後に従業員を抱えながら発展していきたいという時に「今、こういう技術があるんだけど、何とかならないか」と言っておいでになる。まさにそこが重要なところなんです。得意な技術が土台にある。そこに、より特異な一段階上の技術を展開していく。これが成功する一番の近道なんです。
 実は湘南信金が300人くらい集まって、いろいろなアイディアを持ってきました。とてもじゃないが大学が扱えないようなものばかりです。ただ、そうであっても、得意な技術が今までやってきた中小零細企業はさらに私達大学の視点から見て「こんなこともできますよ」と言う「より一歩前へ出ませんか」というのが今の話しのポイントなんです。技術革新も自然に出てくるんです。技術革新は何か?なんて考えていても仕方ないんです。
 日々、現実に抱えている問題をどう解決していくか。ちょっとしたアイディアとか、ちょっと大学がそこで支援するくらいで、今日までやってきた企業は必ずこうだったらこういけるかもしれない、という考えが出てきます。それがない企業は将来伸びません。そして、新しい技術で、質の高い製品づくりで闘いましょう。この辺を私達がお手伝いしたいということです。
 大切なことは、ハイテクである必要はありません。ローテクでも闘い方次第です。長年積み上げて得意な技術を先ず基盤にしましょう。得意な技術がない企業が来られても、一緒に協力することはあまりないんです。むしろ企業が「ここが得意だ、誰にも負けない、ここをもう少しどうにかしたい」そういう時に私達が非常に効果的にお手伝ができるんです。

 

●企業が行き詰まった時、役立つ大学の基礎研究
 では「一人で闘えますか」というところですが、大企業は殆ど自分たちの会社に研究所を持っていますから闘えますが、大企業と言えども大学に来ます。それは大学が企業と全然違うことをやっているからなんです。最近の誤った産学連携の風潮は、国立大学を中心に始まっています。企業に役立つ研究を大学がやらなくてはいかんと言われるものですが、とんでもない話しです。企業に役立つ研究をやっていたら、企業は大学へ来てくれる価値はありません。私達は基礎研究を普段からやってきて、いろいろな知識を貯めてきています。だからこそ、企業が行き詰まった時、来て頂ければこんな分析をすればいいと、処方せんが出せるんです。つまり同じ方向でやっていたら、来て頂く理由がないんです。
 私達の役割は病院であり、百社百通りの対応があります。その結果、年間700数10件、16億円の収入という背景ができるんです。
 研究開発には懐の兼ね合いがあります。その点は「可能ですか」と聞いて「そうはいきません」と言うのであれば、税金を払っているんだから公試(公設試験研究機関)を使いましょうということです。と言っても地方の公試は、役人ですからまともに相手をしてくれないのをよく知っています。ですから、期待をして行ってはいけません。むしろ、期待しないで行って、いい情報を貰った方がいいんです。その時、大学と組んで、そこからお金を貰う。このパターンが今まで一番うまくいったやり方です。それで産学連携をする。
 地方の公試はいい装置を持っています。しかし、ホコリをかぶって動いていないのが殆どです。そこに若い研究者を送り込ませて大学でトレーニングをさせる。そして、公試の機械を使ってしまえばいいんです。そういうことを実際にやっているんです。そして、最小の研究開発投資で実際に中小企業でも十分に闘えるということになります。大企業などでも、基礎研究とか特殊分析は大学を頼って相談にきます。
 最近は通産省含め、地方自治体が企業に「大学とプロジェクトを組むんだったら」と言うと、かなりの補助金が出ます。是非そういうものにアタックしてください。神奈川を中心にしたいろいろな窓口を私達は紹介しています。これが現実です。
 私は工学部の教授です。理屈を言って実証できないことは言いません。全部実証に基づいています。学生にも「自分でやってみろ、おれの背中を見てついてこい」としか言いません。「おまえは駄目じゃないか」とさとしてもそれだけではついてきません。自分が社会に出て、やって見せて、しゃべって、そして「おまえの番だよ」と、こうやらないと学生はついてきません。
 同じようにベンチャーも、産学連携も、口で理屈をこねても駄目なんです。「企業の立場になったことがあるんですか。本当に企業を支援したことがあるんですか。本当に製品を開発しないと困る、事業化しないと困るんだ」と、追い詰められて困る学者はいないんです。
 学者は変わった人が多くて、私も含めて一般社会に出たくなくて大学に残る人が多いんです。

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