第19回
1999.8.3 シャトレー・イン横浜

 東海大学研究推進部部長
 東海大学大学院工学研究科応用理学専攻・
 工学部応用物理学科
 教授 内田裕久先生


1973年    東海大学工学部卒業−工学士
1975年    東海大学大学院工学研究科金属材料工学専攻 修士課程終了−工学修士 
1975-81年  西独マックス・プランク金属材料研究所研究員
1977年11月 西独シュツットガルト大学金属学専攻 博士課程修了−理学博士
1981- 現在  東海大学勤務(81年-講師、84年-助教授、90年-教授)
1990-94年 (財)神奈川科学技術アカデミー(KAST)
       「内田超磁性材料プロジェクト」リーダー
1997- 現在  東海大学研究推進部部長(産官学連携推進担当部署)

主な活動
通産省産業技術審議会評価部門専門委員、日本水素エネルギー協会副会長、NEDO-エコエネ都市ネットワークプロジェクト水素技術委員会委員長、他多数。


第19回講演(1/6ページ)

 

元気の出る中小企業論「東海大学の産学連携の現状」

 

●独自の技術を持たなければ独立国家に成りえない
 今日は「元気のでる中小企業論」ということですが、私は本来専門が材料関係ですから、今日のお話しが、どこまでお役に立つかと思っております。

 産学連携で東海大学は、なぜ、湘南信金のような金融機関と連携するのか。また、ドイツとの研究財団との連携をなぜするんだろう。これは日本の国からすると、国際間で企業を支援するシステム、外国が日本の企業を取り込んで、美味しいところを持っていこうとする、これが今、始まろうとしています。大学の研究室同士の競争が始まりだしたということです。
 この辺をしっかり見ていかないと、日本が外国勢に取られてしまう可能性があります。逆に、これを利用して国際展開を図りたいというところです。
 産学連携のNexusというパンフレットをつくりました。真っ赤な表紙です。これを企業に渡した時「あの時、赤いものを貰ったな」と机の上に積んでおいても直に目につく、ということで無理をしてでも、この色にしました。
 東海大学の産学連携のシステムを話す時、やはり、東海大学の原点は松前重義先生です。内村鑑三の弟子として、キリスト教の精神に基づく教育の重要性、これを強く感じられたわけですが「科学技術と人間」というハーモニーにつながってきているんです。授業では現代文明論と言っていますが、何々論と言うよりは実践としてとらえています。
 もう一つは技術者として闘ってきた経緯があります。ズーッと続いています。テレビドラマにもなりました。西郷輝彦さんが松前先生の役となって出演していました。これからも分かるように、歴史的にも大きな記録を残されたということです。
 昭和11年、東海大学の初代の学長をされ、電信電話学会の会長が書いた「通信機の国際化」という論文があります。「外国の特許に依存した商品を日本はいろいろつくっている。しかし、こんなことでは欧米の属国でしかすぎない。一独立国家として存在するには、日本独自の技術を持たなければいけない」ということを強く訴えています。松前重義先生も梶井先生達と一緒になっておこなっていたわけですが、米山先生と松前先生の論文の中にも無装荷ケーブル方式があります。それをなぜ無理してでも特許にしたかというと、当時の列強欧米からの独立というものがあったからなんです。
 今の技術貿易の統計から見て、まだ赤字に近い分野が多い。特に、ソフト関係を中心にした通信関係はアメリカに依存しています。
 松前先生も戦前、この辺の重要性を感じて指摘されています。若い人達を教育しないといけないということで、新しい日本経済学の創設から、今日までの長い道のりにつながってくるわけです。無装荷ケーブルを使った通信方式の特許収入で、学園の基礎ができたということです。今、東海大学は特許で国内トップといわれています。大学のできた背景をみれば当然なんです。
 科学技術庁の設立にも大変尽力されました。最近では、科学技術基本法でも現総長が最終的には携わっています。
 FM放送と多重放送は日本としては初めてです。NHKとは違う放送方式で実用化して特許をとったわけです。いろいろな技術が東海大学には、いっぱいあります。あまり知られていませんが、新幹線も0系から700系まで、すべて教養学部の工業デザインの教授が設計に携わっています。もう一つは山梨県の超電導を使った磁気浮上列車があります。これは金属材料工学科の教授の発明です。
 私ごとですが、最近のプリウスに搭載しているニッケル水素電池。この中には水素吸蔵合金が使われています。10年くらい前に大きく報道されました。1000回の高充放電も可能ということですが、当時はこんなものは実用化にならないだろうと散々言われました。現在は三井金属が実用化し、松下が電池とし、さらにトヨタで使われています。

 

●産学連携で首位の座にある東海大
 このように、東海大学は国内はもとより、国際的にも一番という、かなり大きな話題を提供しています。赤いパンフレットNexusですが、これは連携、連合という意味です。大学と一緒にやりましょうということで制作しました。これを作った背景は、中小企業の経営者と話していて「大学は気取っていて敷居が高い。そんなところに相談に行けるか」と言われ、どうやったら敷居を低くできるかを散々考えました。大学の人間が作ると難いものしかできない。そこで、アウトソーシングで学生向けのノリで、軽い雑誌を作っている出版社に作らせました。1ページ目には産学連携の特長が書いてあります。その中に適切な研究者、及び人材教育に通じた教員の紹介、事情、要望に合わせた対応、なんて書いてあります。このパンフレットを配ったら、企業からの評判がいいんです。最終部分に大学の現在のデータを載せています。

 現在、学外では国・地方自治体、企業、その他財団等の委託研究先から寄付金を頂いています。その数は1997年度で契約件数は700数10件、98年度も同じような数だと思います。契約金額が16億円、これに文部省からの関係研究費を含めて22億円を外部から取り入れて、学内の先生方がそれぞれ研究に使っています。
 私のいる研究推進部は、この数字をこれからいかに大きくしていくか、ということです。これはどういうレベルなのか、多いのか少ないのかということになるわけですが、これは国内で断然トップの数字です。しいて言えば、立命館大が近づいている現状です。
 人材育成の観点からの産学連携の企業ですが、必ずしも研究だけを委託するのではありません。今抱えている企業の従業員をあずけてください。1ケ月1万2,000円以上、消費税抜きです。これで半年でも1年でも、研究して頂きながら、同時に一緒に問題を解決し、いろいろ手法を覚えていこうとするものです。
 例えば、従来の会社の中で起こった問題で対処の仕方がなかった。そんな時、大学には大きな分析機械もあります。わざわざ購入して高い人件費を払う必要などないわけです。そんな時、是非大学へ来て、相談して頂きたいと思います。大学では常にランニングコストを掛けているわけで、そのコストの一部を産学連携に頂きたい、と思うわけです。
 現在、300人程度の研修員の方を受け入れています。私の研究室でも約6人の企業の方を受け入れています。

 特許の話しをしましたが、慶応大学の出しているデータによると、日米の大学で比較すると、カリフォルニア大がトップです。続いて東海大、以下スタンフォード、ワシントン、マサチューセッツ工科、ミシガン、テキサス、東工大、名古屋大、早大、東大、コロンビアとなって、確かに特許の数では東海大は日米でも第2位となっています。この背景には松前重義先生が敷かれていった理工系を重視したやり方があり、現在学生数は約3万弱ですが、65パーセントが自然科学系の学生です。今、日本国内で50パーセント以上の理工系の学生を抱えている大学は、単科大学以外、総合大学ではありません。東海大だけだろうと思っています。

 アメリカは産学連携の調査に数年前から積極的になっています。これはアメリカの戦略です。ホワイトハウスが抱えている調査会社が日米産学連携の度合いを調査しました。スタンフォード大はさすがにベンチャーをたくさん出しています。トップクラスですが、国内では立命館、東海大、この辺が今、競っているというアメリカの見方が出ています。これを見て非常に面白いのは、順序を逆にすると偏差値になるんです。日本の偏差値社会から見ると、まさに逆なんです。しかし実態社会から見ると、しかもアメリカが大学を評価した場合、この逆転現象は何を物語っているかということです。いかに日本列島という小さな島国社会は、国際社会の中では特殊なのかが分かります。
 国際社会の中では産学連携、特許の数の多い、こういう活動をしている大学の方が遥かに評価が高いんです。技術が大切なんです。この辺は、私たちは非常に大きな自信となっています。
 これに関しての報道はたくさんあります。日刊工業新聞系のトリガーが報道したものによると「日本を支えている大学は東海大を含めて先に述べたこの辺だ」と書いてあります。建学の精神がある東海大は、まさに松前重義先生のつくった大学の理念そのものが、今数字となって日米間の比較の中でグンと出ているんです。
 どうも最近入ってくる学生は、偏差値ばかりで自信のない学生が多くて仕方ないんですが、4年間学んで、自信を持って出ていくんです。
 このような現状の中で、いろいろなところが報道してくれて、追い風となっています。しかし、ただ追い風に乗っていては仕方ないわけで、産学連携とはどういうことなのか、もう少し具体的な話しをしていきたいと思います。

第19回講演(2ページへつづく)