第18回講演(5/6ページ)

 

●エンゼルは起業家育成にも一役
 活動の重要点ですが、ベンチャーキャピタルが要求するのはまさに、
ROIです。プロセスが何であれ、とにかくリターンをくださいということです。運用がどういう率でできたかが、ベンチャーキャピタリストの成績にかかるわけですから、結果だけです。
 これに対してエンゼルは、小さな会社が大きく育っていく。それこそ山あり谷ありといろんな困難がある。プロセスは一緒になって悩み、そして考える。夢を共有する。そこから学ぶというのもエンゼルの一つのプロセスです。結果だけでなくて、今どうなっているのかということをエンゼルに頻繁に報告することが実際には行われています。

 あと、活動の利点ですが、ベンチャーキャピタルからお金を借りますと、当然コンサルタントが付きます。それから公認会計士を紹介してもらいます。ベンチャー企業の専門の弁護士が付きます。ベンチャーキャピタルを中心にしてネットワーク化します。
 これに対してエンゼルの場合は、かなり個人のノウハウから得られる部分が多いんです。あくまでもエンゼルの業界とか、業務経験から学ぶことが多いんです。
 ただ一方、ベンチャーキャピタルは冷たいというか、数字のみで判断していきますから、ある時、ここを乗り越えれば大きくなるということがあります。しかしイクジットのタイムリミット、例えば3年であるとか、その時がきたら越えられる可能性があっても、待たずにポンと切ってしまいます。
 これに対してエンゼルは3年の約束だったんだが、もう少しで何とかなりそうならもう少し待とうとか、そういった忍耐もしてくれます。融通をきかせてくれると同時に、かなり先の見えない段階からみてくれます。こういった違いがあります。
 ベンチャーキャピタルは資金をいかに効率よく運用するか、運用の手段としてのベンチャー企業なんです。それに対しエンゼルは起業家育成なんです。

 私はエンゼルの活動がベンチャー企業の活力、ベンチャー活動が経済を救うかどうかという非常に大きな役割を持ったのではないかという所以は、この起業家育成なんですね。次の起業家をいかに育成するかという、お金を持っているだけではできないんです。銀行はお金を出すことはできても起業家を育成することはできないんです。起業家育成ができるのは、あくまでも自分が起業家だった人、自分が会社をつくった人、これで失敗しても成功しても、苦労を共にし会社をつくるとはどういうことか、実体験を持った人でなければ本当の意味の起業家育成はできないんです。
 起業家活動は、私は教育はできると思います。能力のあるなしではなくて、やる気さえあればできると思います。できると思いますが、それをマニュアル化して何かを読んだら会社をつくれるようになるとか、起業家になれるとか思っていませんし、私の調査結果でもそういう結果は出ていません。
 何が必要かというと、アクションなんです。ベンチャー企業とは不透明なんです。つまり、だれもやったことのないビジネスをやるのがベンチャー企業なんです。ですから成功するかどうかは分かりません。やってみることを勇気づけ、一緒になってやってくれるのは、やはり会社を運営したことのある企業家自身でなければ起業家は育成できないんです。そして活力、活動には結びつかないんです。
 エンゼルの役割は起業家を育成する。そしてベンチャー活動を活発化するのに非常に重大な役割を持っていると思います。

 

●リスクを分散しハイリターンを
 今、日本ではあまり見られない資金導入の手段としてのベンチャーキャピタル、エンゼルのお話しをしました。では日本とアメリカで何が違うか。ベンチャー企業のベンチャー環境とでも言いましょうか、その大きな違いは人、金、物、革新的なアイディア、これが一つのところにまとまって、だれでもアクセスできるセンターがあるということです。
 それともう一つ、重要なお金とリスクが分散されています。リスクを負う側も、負われる側もみんな分散しています。1カ所に頼って、それが倒れると連鎖的にコケてしまうといったことを避けているといったゆえに、ベンチャー企業は潰れる場合もありますが、かなりの部分潰れても救われるといった、救いの手があるわけで、サポート、保険とも言える活動でもあるわけです。
 そういった意味では本当にハイリスクなんだろうか。分散しているがためにハイリスクではなく、ハイリターンの方がアメリカの場合は可能性を持っているわけです。
 
 日本では無理かと思ってらっしゃる方も多いと思いますが、21世紀の日本の経済を救うのはベンチャーだと思います。環境は違いますが、言い方を換えれば日本の今のシステムで新しい経営を生みだすことはできると思います。ただし、大企業にはかなりの部分、無理かなと思います。やはり、新しい経営、新しいビジネスの仕方、新しいアイディアを出せるのは身軽な中小企業なんだと思います。中小企業と、これから会社をつくろうとするベンチャー起業家なんだと思います。

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