第18回講演(4/6ページ)
●エンゼルは小回りがきいて魅力的
では、このエンゼルはどんな人なんでしょう。
エンゼルにはいろいろなタイプがあります。シリコンバレーの例ですが、超成功者、いわゆるビル・ゲイツであるとか、日本でもソンさんが新しい企業にお金を出しています。ベンチャーに大成功した人が次のベンチャーにお金を出すといったのが典型的なパターンです。これが一番投資額も多いですし、数としても比較的大きい。自分もベンチャーで成功し、それを、また次世代に投資するのは重要であって、そういう人たちが次のベンチャーの活力になるんです。自分が成功しているので、ノウハウがあります。
このお金の裏には必ずノウハウがついています。いかに成功したか、いかに危険を避けるかと、ただお金を出すだけでなく、一緒になって指導し、支援する。そして悩んで成功に導いて、さらなるチャレンジを促しているんです。これが典型的なエンゼルのタイプです。
次に、大富豪です。お金が有り余っています。アメリカは今、株価が高い。これ以上高くなるかは私は疑問を持っていますが、高い株を買うよりも安いベンチャーに投資して、これが成功すれば何倍にもなってリターンしてくるわけです。富豪たちもポートフォリオを組んで、証券市場に何割とか、銀行に預けていても確実な利子しか付きませんが、ベンチャー企業に投資すればかなりの率でリターンがあるということでベンチャー企業への投資を考えています。
それから、熟練投資家です。これはいわゆる投資銀行で、日本では銀行はお金を預かる、貸し出す。それからM&Aなんかも銀行のひとつの部門としてあります。ありとあらゆるお金に関するかなりの部分は銀行がやっています。
アメリカでは銀行は貯金する銀行と投資銀行とは全く違う役割を持っています。同じ銀行でもかなり異質です。
投資銀行は、企業の売ったり買ったりということで企業の価値を高めることを中心にやっています。が、ここでも投資銀行のバンカーといわれる人たちは、ベンチャーキャピタリストに近い役割を果たしています。ベンチャーキャピタリスト出身の人たちも熟練投資家として活躍しています。この人たちが活躍できるのは資金を運用して、どういうベンチャーに投資したら一番回収率が高いかをよく知っているんです。ですから、熟練投資家なんです。
こうした人たちにファンドを預けると、非常に高い率でリターンがあります。ファンドも自然に集まるんです。このメカニズムがあります。
熟練投資家も自分の運用率が何パーセントかを、打率のように毎年計算して、それを基金とか、ファンドを持っているところにオープンにします。ですから、誰が一番運用率が高いかを市場で分かっていますので、こういう人たちのところにお金が自然と集まります。こういう人たちが優良で小さくて、大きく育つであろうベンチャー企業を探してくるのを上手くやっています。これがエンゼルの超成功者とともに重要な役割を担っています。
●次の革新につなげるのが米国の典型的パターン
ベンチャー成功者でも超成功者はビル・ゲイツに代表されるような人ですが、アメリカではベンチャーが成功すると、当然最初はお金を借りて、日本では5年くらいですが、アメリカでは非常に短期に返すことを要求されます。長くて3年です。3年で黒字化して成功しなければ、そこで打ち切りになってしまいます。
そういった時にベンチャーキャピタルに頼らないで自立をするわけです。それをイクジットといいますが、イクジットをする時に、証券市場で資金調達するか、あるいは売却するケースも非常に多いんです。日本だとM&Aはあまりいいイメージを持っていませんが、ここ1、2年M&Aが増えてきています。
ジャック・ウエルチがマーケットで第1位をとれない部門は、優良でも売るということで、かなり戦略的に成功しました。それが日本でも情報が入ってきていることもあり、日本もいろいろ部門を売るとか、活発になっています。
小さいところでも倒産前に営業譲渡するといった形で、M&Aは活発になってきました。アメリカではイクジットは店頭公開すると同じくらいの比率、あるいはそれ以上に成功したら直に売却する、ということで、小さい仕事を大きくリターンする。このイクジットの仕方がよく行われています。
で、その人たちは何をするかというと、エンゼルになるわけです。
次の起業をする人にお金を出して、その企業が大きくなればそこでまたリターンをして、そういうやり方をするか、あるいは新しいアイディアで、自分で新しい会社をつくるという、いわゆる会社を「一つの売り物」という受け止め方をします。
日本ではつくった会社は我が子の感覚ですが、ズーッと持っていることはあまりしません。ベンチャーは革新性だと言いました。常に革新していく。これがベンチャー企業家の特徴です。
会社を維持するよりも、最も価値ある時に売ってしまって、次の革新につなげていくのがアメリカのベンチャー企業の典型的なパターンです。
あと、草の根コンソーシアム。ここではプロの投資家が小口の投資家にすると、これもリスク分担の一つのパターンですが、例えば一人で一社に投資すると怖いものがあります。その時に何億とかは出せないが、50万なら出せる、100万円ならポケットマネーで出せる、そういう人が何人か集まる。そうすると塵も積もればで、とてつもない額になります。株式会社ができます。そういう助け合い、草の根コンソーシアム、助け合い組合と言ったほうがいいでしょうか。これをプロの投資家、大成功をおさめなくても中成功、あるいは小成功をおさめたベンチャー企業家が、かなり草の根コンソーシアムをつくっています。地元でネットワークを中心にして、みんなでお金を出し合ってつくって、次世代を育てようというのがこのコンソーシアムの趣旨です。
退職サラリーマンも自分が会社をつくったんではないんですが、大富豪とまではいかなくても、そこそこの退職金をもらって、これを証券市場に、ある部分はまかせますが、一方でバクチかも知れませんが小さな資金で大きなリターンをという人たちがエンゼルになって、ベンチャー企業に投資します。
草の根コンソーシアムに退職サラリーマンの人が入るケースがよくあるんですが、これもエンゼルに加わるということです。
また、スモールオフィスであるとか、ベンチャー企業でもない、エンゼルからもあまり借りてない、あるいは借りていても資金が足りないという人には友人とか家族が支援するケースも非常に多いんです。これは日本でも、実際に調査した時には殆ど自己資金です。何年かサラリーマンをやって、貯めたお金で会社をつくりました。友人からお金を借りました、というケースが多いんです。
あと、バーターです。これはコンサルタントであるとか弁護士とか、公認会計士ですとか、実際に会社をつくる時にはアメリカでは必ず付きます。ベンチャーコンサルタントです。日本ではほとんどありませんが、アメリカではかなりの数です。こういう人たちが加わりながら、投資もするがお金もください。いわゆる株式会社を持つかわりにリターンをくださいといった形でベンチャーを支援する。このような人もエンゼルになります。
しかし、共通するところは個人の趣味、自分のリスクでベンチャーを支援するというのが、このエンゼルのタイプの共通した特質です。
エンゼルとベンチャーキャピタルとの違いはベンチャーキャピタルは人のお金を預かって資金を運用しますから、ROI、リターンオブインベストメント。これがかなり数字として出てきます。出資者からは何パーセントで運用してくれとか、かなり強く要求されます。
これに対してエンゼルはひょっとするとゼロになる。自分が満足すればいい。自己実現、自己満足の点でエンゼルはお金を出しています。それからあくまで自分のリスクで自分のお金でベンチャーに投資しています。これに対しベンチャーキャピタルは人のお金です。当然そこには高いリスポンシビリティー、責任がかかってくるわけです。
それと、投資基準といって個人の趣味とか好き嫌い、自分が関係したビジネス、あるいは自分が関連したビジネスを起こすのを支援することです。それは相乗効果を狙うといったことで、エンゼルの活動としてはかなりあります。
例えば、自分がスーパーのフランチャイズをやろうとする時に、そこで仕入れる。あるいは顧客サービスのデータ開発、ソフト開発をするような会社に支援して、そこに自分の会社と相乗効果でビジネスをするということを考えるケースが多いんです。自分にあった事業とか、創業者との部分とか、かなり個人的なペースで事業を進め、支援をしていきますので、創業者との相性が非常に重要になってきます。
これに対しベンチャーキャピタルはあくまでもビジネスモデルです。場合によっては資金に対してどういうベンチャーに投資をしたかをオープンにしなければなりません。当然、そういう人たちを説得し得るビジネスモデルを提示しなければいけないわけです。しっかりしたビジネスモデルがなくてはいけません。それと、投資家に説得できるような人材、起業家としてのかなりの可能性がある創業者でないと、ベンチャーキャピタルはお金を出しません。
これに対してエンゼルは、かなりプライベートな関係でお金を出してもらえるということです。
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