第18回講演(3/6ページ)

 

●米国と日本の大学の大きな違い
 女性起業家の国際会議に出てびっくりしました。その時会った女性は経営者だと思って話をしていたんです。そうしたら、その女性はペンシルベニア大の名刺を出すんです。それはアンデュロプロデュースセンター研究室となっているんです。米国ではセンターを殆どの大学が持っています。会社をつくることを専門に協力する大学さえあります。ボストンカレッジはビジネススクールでもセンターを持っています。
 で、その女性にどんな研究をなさっているのかと聞いたら「私はこれから日米のクロスカルチャーの文化交流を促進するために、いろいろな会社を通してファウンディングをコンサルティングする会社をつくろうと思っている」とおっしゃるんですね。  
 日本の大学の研究員は、何か研究テーマを持って研究するんですが、違うんです。ペンシルベニア大のセンターは会社をつくろうとする人に対して、いろいろなアイディアがかなり明確になった段階で研究員の称号を与え、名刺をつくっていいという許可を与えるんです。米国ではオープンな会社といえども、信用は大切です。これがなければ情報も金も得られません。この名刺を手に入れれば、かなり大手の企業でもトップが会ってくれるとか、銀行でも信用が得られるとか、非常に大きなメリットがあるんです。
 そういう名刺をこれから会社をつくろうという人、学生ではないんですが、そういう人に信用を与えるということさえ大学はしているんです。これには大変驚きました。おそらく日本の大学には一校もないと思います。
 今、日本で一番アンデュロプローダーの育成に活発なのは早大です。ビジネスプランをかかげた人に200だか500万円を出してのコンテストがありますが、米国ではそこまで踏み込んで、ある程度の信用を大学を通じて起業をしようとする人に提供しています。言い換えればリスクを共有することで、もしその人に何かあった場合、ペンシルベニア大はある程度責任を負わなければなりません。大学の名誉を汚すかも知れません。そういうリスクさえも負っているんです。
 これから起業する人に日本の大学では、大学生でもない、卒業生でもない人に果たして名刺をつくらせるでしょうか。そこまでのリスクを負担することをアメリカの大学はやるんですね。

 そういう名刺を持った人がいろんなインタビューをする。ここにはいろいろ難しい問題がありますが、どこそこには資金があるとかの新しい情報を持って帰ってきます。センターにその情報が集まるわけです。大学としては何か起こるかもというリスク以上に、アメリカ全土、全世界に散っていろんな起業のアイディアを持ってくる、そういったことをセンターでプールし、他の人に情報を与える、このことの方がリスクよりも遥かに多いと考えるわけです。
 ですから、自然と大学のセンターに情報が集まり、情報の集まるところにお金が集まり、情報を中心としてお金と人と技術と新しいアイディアが集まってきます。ペンステート以上にその役割を果たしているのがシリコンバレー近くにあるスタンフォード大なんです。
 こういった大学の機能が全く違う、そしてリスクの分散の仕方が銀行一行に頼らなければいけないというのと違って、ベンチャーキャピタルあるいはエンジェルといって、いろんな資金を出す、情報を流す、企業をつくるというノウハウを流すメカニズムが全く日本とは違う。だからこそアメリカであれだけ活力がある。そして、経済低迷の中で、大企業中心のお金の流れの中で、あるいはいわゆる全く別の流れを変えて、ベンチャー企業に資金が流れていくメカニズムを大学と社会がつくったわけです。

 

●エンゼルとベンチャーキャピタル
 エンゼルについてお話ししたいと思います。エンゼルとベンチャーキャピタルがアメリカでどんな活動をしたのか。
 ベンチャーキャピタルがベンチャー企業に投資した額は72ミリオンです。これに対してエンゼル、個人投資家ですが自分が会社をつくって成功して、そして次世代の若い起業家に出すといった、個人支援家とでも言いましょうか、エンゼルというよりベンチャー企業にとっては女神様のような存在です。
 エンゼルが若い起業家に投資した額のトータルはベンチャーキャピタルの72ミリオンに対して20ミリオンから55ミリオンです。エンゼルはかなり個人的なルートでやっていますので、数字をつかむのは難しいんですが、かなりの額の資金がエンゼルによってベンチャー企業に流れていることがわかります。具体的な取引が何社に投資したかは会社の数を考えて結構ですが、1社に対して何回か投資することがありますから、厳密にいうと違うんですが、概略をつかむためには会社の数というふうに捉えて戴いて結構です。
 1995年にベンチャーキャピタルが投資した数が1150に対してエンゼルが資金を援助したベンチャー企業の数は70万社です。このくらいエンゼルのパワーは強いわけです。そして、活力の源泉になっています。
 ただし、エンゼルは数多く投資していますが、1回の投資額は6.2ミリオンで、ベンチャーキャピタルの投資額に対してかなり少額です。個人がリスクを負って援助していますから、1社に莫大な額を投資してしまうと自分が危なくなってしまいますから、そう多くは支援できません。
 逆にベンチャー企業も賢くて、何人かのベンチャーから資金を集めていますから、一人ひとりのリスクを分散しています。ベンチャー企業自体はかなりの額を集めても一人ひとりのエンゼルの額はそんなに多くないことがわかります。

 いわゆるベンチャーキャピタリストといわれる人はどんな人でしょう。ベンチャーキャピタルは機関投資家、あるいは基金からお金をとってきて、ベンチャーキャピタルに投資する会社なんです。そこにいるのがベンチャーキャピタストで、必ずしも会社に帰属しないで、個人でやっている方もアメリカにはかなりいます。
 しかし、ベンチャーキャピリタストは950人。これに対しエンゼルの数は15万から25万人です。みなさんもアメリカでなくても、会社をつくろうとした人は100万円でもいくらでも出したらエンゼルになるんです。その数は莫大になることがわかります。
 それと同時に、つまりシードステージ、会社をつくった早期の段階でお金を出している率はベンチャーキャピタルが1.1ミリオンに対してエンゼルはその4倍から15倍と、非常に大きな額が成功するかどうかわからないけれど、そういった段階で支援をしています。
 ですから、非常にリスクが高いわけです。
 日本でも会社をつくる時、ある程度上手くいくというところには銀行はかなりの額を貸してくれます。しかし、どうなるかわからないところには銀行やベンチャーキャピタルはリスクを負いたくないのでお金は出しません。
 これに対してエンゼルは、最初は頑張れよということでかなりの額を出しています。創業時の段階で何社に出しているかは、ベンチャーキャピタルはさらに減って、314です。つまり、これは上手くいくかは最初から分かったところは、実はアメリカでもそんなに多くはないんです。ベンチャーキャピタルの眼鏡にかなったのは、たったこれだけなんです。
 それに対し、どうなるか分からないのを救ったのがエンゼルなんです。3万社から5万社をエンゼルが助けています。投資額はそんなに多くありません。特にシード、つまり立ち上げ段階ですから1億、2億程度で10億、20億の設備投資はあまりやりません。エンゼルが取り扱う額は創業時に関してはそんなに多くない、ベンチャーキャピタルに対してそんなに多くないことがわかります。
 つまり、ベンチャーキャピタルが支援するのは、大きく生んで大きく儲かる企業が対象で、小さく生んで大きくなるかも知れない企業を助けているのは、実はこのエンゼルなんです。

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