第18回講演(2/6ページ)

 

●米国の経済低迷を救ったのはベンチャー企業
 アメリカは経済低迷の中であれだけ活発に創業がおこなわれたか、起業数が増えたか、一体何が起こったのかを考えてみたいと思います。
 米国の経済低迷を救ったのは、それは確実にベンチャー企業でした。ベンチャー企業によって産業構造の変換がおこなわれました。従来の重厚長大工業が中心だった産業から、いわゆる IT産業、インフォーメーションテクノロジー(情報産業)にシフトしていったわけです。IT産業、情報産業の中での起業家というのは非常に多くなったわけです。その代表的な例がシリコンバレーです。それと同時に新しい小さな企業ができることによって、雇用創出が行われました。
 雇用の創出は大企業がリストラする。代わって新しい企業ができた。と言ってもリストラの人員を吸収するだけの雇用数を確保できないんです。それはベンチャー企業にプラスして、いわゆるソーホーといわれているスモールオフィスです。通産省もかなり興味を持っています。個人企業のオフィスに対して支援しようとしています。
 ベンチャーと同じくして、このソーホー、特に女性が中心になって個人商店や家庭でビジネスを始める数がかなり増えました。これによって、まさに産業構造の変換と雇用創出の二つの要因で経済の低迷を救ったわけです。そこには通産省がベンチャーに資金を回さなければいけないと、いろいろな施策をとりました。同時に経済の低迷と銀行のいろいろな問題点が浮き彫りになりました。貸し渋りで悩まれた方も多いと思います。これが同時に、日本ではこの資金というものが注目を浴びました。
 アメリカと日本のベンチャー企業及びベンチャーキャピタル。資金を流入する中心になっている1997年では日本の資金はどうであるかというと、日米の資金を融通している状況の比較をすると、市場規模が違いますが461万社に対して125万社と、数でいうと1対4の事業者数です。これに対し新規設立企業数は1対8と米国の企業と比べて日本の方が僅かな比率であるということがわかります。
 しかしながら、店頭新規公開株式数は日本は頑張って1対4と全体の事業者数と同じような比率で株式公開をしています。日本企業も頑張っていることがわかります。そんな結果として公開会社数は1対3になっています。ですから、日本企業の方が逆にいえば大きく育っているという、またはオープンになっているといえるのではないかと思います。
 この数字の裏には先ほど話しました個人企業やベンチャー企業でも、まだなかなかIPOにたどり着かない企業がたくさん含まれているがゆえに、総会社数は1対4なのに公開会社数としては1対3と、日本での比率の方が高いと数字の上では表われています。
 さて、ベンチャー企業に資金を流入させているベンチャーキャピタルの会社の数ですが、会社全体の比率と比べて1対5と、日本ではベンチャーキャピタルの会社の数、そのものもまだ少ないといえます。
 しかし、ベンチャーキャピタルに流入している資金はどうか。これは1対3の割合ですから結構、額としては入っています。また、新規設立会社数としては1対8の割合ですから、それに比べると1社当りの投入し得る資金の量としては、決して少ないわけではないんです。ところが年間投資額、つまり実際にベンチャーキャピタルに資金を援助したという額になると、米国に比べて1対6と、それ程実績が上っていない。つまりファンドはあるけれども実績は上がっていないということが数字から見えます。

 

●東海大もTLOを実施
 日本のベンチャー企業はファンド自体はあるのに、ベンチャーへの融資に、どうしてつながるようになっていないのか。それを考えてみると、ベンチャーに投資するにはハイリスクである、というのがかなりバリアになっていると思われます。
 その背景には、米国ではハイリスクが分散されていることが明らかになってきています。
 会社をつくる多くの人々は銀行から融資を受けているのが現実です。しかし、今の貸し渋りみたいに、銀行がクシャミをすれば中小企業は風邪をひくという状態になっています。資金を借りるところが分散されていないんです。
 これに比べ、米国は先ず会社をつくる時にベンチャーキャピタルから借りる、あるいはエンジェルから資金を支援してもらう。友人から、そして個人から資金を出すといったように、お金を借りるにもリスクを分散しているんです。一カ所が厳しいことを言ってきても他でフォローできるようになっているんです。このメカニズムの違いは、日本とはベンチャー企業の設立環境が違う点もあるわけです。
 もう一つ、ベンチャーには先ずお金が必要です。それからアイディア、技術です。これは単にハイテク技術だけでなく、経営技術、サービス技術、それから人がなかなかベンチャーには集まりません。
 それと、重要なのは情報です。これが日本ではバラバラに動いています。今、大学がやっとTLOといって、大学と一般企業が一緒になって大学にある新技術を企業に移転して、商品化させて事業化させるといった共同研究をしています。これがTLOです。これはかなりの大学で活発です。東海大でも先日新聞に載りましたが、湘南信用金庫と一緒になってTLOを行いました。東海大の行ったTLOは画期的だと思います。
 多くの、例えば東北大、北大、あるいは京大など、技術が強いんです。TLOは1年前からかなり活発につくられています。それは殆ど工学部の研究室と一般企業とが一緒になるというメカニズムです。これに対し、東海大は技術とお金をドッキングさせたんです。かなり新しい試みだったと思います。
 では、米国ではどうしたか。人、金、技術、情報という重要なベンチャー企業がファウンディングする重要な要素を、あるところがセンターになってコントロールしていきます。それはどこかというと、やはり大学なんです。ベンチャー企業あるいはベンチャーの重要な活力を生みだすところとなっています。

第18回講演(3ページへつづく)