第16回講演(7/8ページ)
●選挙公約は必ず実行する
そしてもう一つのターニングポイントは1997年5月に行われた選挙の結果、労働党が18年ぶりに政権を奪還してブレアとなりました。ブレアはサッチャーとは違う、あるいはかつての労働党が信奉してきたようなイギリス型福祉国家体制でもない、第三の道を歩んだということを『ニューブリタイン』の中で言っています。
新しいイギリスをつくりだすことは、発足してまだ1年ちょっとですから、評価するには早いと思いますが、しかし日本と違って極めて積極果敢に選挙公約を即座に実行することです。これは日本の政党が見習わなければならない点です。
2、3言いますと、その選挙綱領の中で約束していた地方分権の問題ですが、イギリスは極めておかしな国で、連合王国です。そしてイングランドには地方議会、地方政府がありませんがスコットランドにもウエールズにも、北アイルランドにもあるわけです。北アイルランドには最近動きがありますが、スコットランドとウエールズには大幅な権限委譲を行う。これをしかも上から押し付けるのではなくて、住民投票によってこれを行っていこうということです。
実際に昨年の9月にスコットランド、ウエールズで行われました。その結果は権限委譲を「イエス」という答えがでてきました。これは、実は1974年のウイルソン政権の時に一度デボリューションが問題になりました。住民投票では「ノー」と出たわけですが、今回は「イエス」と出ました。そして外交、防衛、通貨以外などの権限については全部委譲するという形をとっています。
スコットランドでは課税自主権が認められています。ここまでの権限を委譲しています。それから英国銀行の独立性も強めました。従来は公定歩合の決定権は大蔵省にありました。しかしこれを英国銀行に移しました。そして金融政策の明確化・責任を英国銀行にすべて負わせました。
●EU加盟でユーロ圏を形成
三つ目は対EU政策です。実はサッチャーが退任するきっかけもメージャーが潰れた原因の一つに対EU政策がありました。つまりイギリスはヨーロッパの一国ではないという立場をかたくなに守ってきました。これは伝統的にそういう感情が依然としてありました。しかし、ブレアはイギリスはヨーロッパの中のイギリスであることを明確にして、それまで調印を拒んできたのが例の社会憲章です。労働者の賃金を始めとする労働条件などをヨーロッパレベル、EUレベルでこれを承認していこうということにしました。それから既に来年1月から導入されるユーロは、これはかたくなに通貨主権の侵害だとしてサッチャーもメージャーも拒んできましたが、さすがにメージャーも来年1月からは準備不足だということで、これには参加しませんが、しかし、2002年をめどに加入することを意思表示しています。従ってヨーロッパ連合に対して、ヨーロッパ統合に対して現在のブレア政権は協調的です。おそらく1973年1月1日に正式に加盟しましたが、それ以降、ヨーロッパに対してこれほど協調的な政権は初めてです。
もう一つは北アイルランド和平を、一応成し遂げたと言ってもいいと思います。北アイルランド問題は極めて複雑です。17世紀のイギリス革命以前に戻りますが、しかし、戦後だけを考えてみると、過去30年、北アイルランドがアイルランドと統合するか、あるいは分離するかを巡って一見宗教紛争の形をとりながらも、極めて政治的な問題があります。これについては昨年、和平提案をしてIRAもこれを呑んで和平にこぎ着けました。これも、単なる上からの押し付けではなく、今年の5月24日に北アイルランドでは和平を呑むかどうするか、住民投票をした結果、71%がブレアの提案を呑むということで決着をみました。そしてつい先頃、選挙が行われ、アルスター統一党のトリンプルという人が北アイルランドの首相とでもいいましょうか、これに就任します。これもみんなプログラムの中にありました。
また、対人地雷の全面禁止を2005年までに実現すると言っています。これも非軍事化を考えると大事なことと思います。さらに6月18日にイギリスは戦艦に積むミサイルの核弾頭を半減すると言っています。現在300くらいのミサイルを200以下に削減すると、一方的に発表しています。このことの意味がインド・パキスタンの核実験のメッセージをどう読むかと関連してくることだと思います。
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