第16回講演(4/8ページ)
●政治制度の日英の大きな違い
政治を考える場合、日英の違いをお話しますと形は同じですが議院内閣制のあり方が違います。しかし、これは大枠ですからいいとしまして、いくつかの点で政治改革というようなことに関連してきます。あるいは政党の再生に関連してきます。政党政治が健全化するためにそれらを念頭に置いて、いくつかの点を指摘しておきたいと思います。
第一に政党と候補者との関係が日本とイギリスでは全く違うということです。選挙資金はイギリスは全額が政党負担です。現在、選挙区にもよりますが、法定費用が日本円に換算して150から180万円だと言われています。これで選挙活動をします。あとはボランティアです。もし180万円程度でたたかえるなら、日本でも何人もの人が手を挙げるのではないかと思います。ところが日本では何億円という金がなければ選挙にでることはできません。
もう一つの違いは保守党も労働党も候補者は原則として公募です。これは民主党も、新進党の時代に採り入れていましたが定着しませんでした。イギリスの場合はこれが定着しています。公募をどうして選ぶかはボスでもなければ党本部でもありません。政党組織が日本とイギリスでは違いますが末端の組織が独立していて、選挙区政党として選挙区労働党と選挙区保守党があります。そして、ここが候補者の選定権を持っているわけです。選挙が近づくと次は誰を選挙区の候補者にするかということを選定委員会を組織して、そして支持者の中から一般の主婦であるとか、あるいは党活動家の人々とかで選定委員会を開催します。そしてそこで試験をするわけです。例えば政策についての討論会を行う、その結果として出てくる。日本にもこういうものがあれば、より政策論議が下から固まってくるのではと思います。
政策そのものについては、党本部が選挙ごとにかなり分厚なものですがエレクションマニフェクトを発表します。政策そのものについてのコントロールは党本部がします。従ってそこから選挙のあり方が日英で変わってきます。日本の選挙では何を基準にして候補者を選ぶか、人物本位だとかよく言われますが、イギリスは政策本位です。文字通り誰が立つかというよりも、党の政策をどれだけアピールできるか、その政策にかかってきます。その根本になる政策を党本部の調査局、あるいは政策局が中心になり分厚なものをつくるわけです。そういうところの違いがあります。
三つ目は中央政治と地方政治の役割分担ということです。これには歴史的な経緯もあります。イギリスは地方自治の母国だといわれるように非常に地域性が強い、日本よりはるかに強い、それが関連しています。従って地方における利益配分、利益の調整は各地方に任せる。そして中央政治、すなわち国会議員とか政党本部はもっと全国民に共通するような問題を議論することになります。環境問題であるとか、社会保障をどうするとか、外交をどうするとか、こういった問題は各中央がやります。あるいは中央政党がやります。日本でやるような利益配分構造がそこで切れているわけです。
●英国は地方の役割が明確
ところが日本は政・官・財の癒着構造があります。これが地方の利益配分だとか、中央が地方の調整のことまで全部やっています。逆に言うとこれが自民党型の利益誘導型政治を招くということになります。イギリスにはこれがないんです。いわゆる地方は地方の役割分担が明確になってくる。これは非常に大きなことです。
自民党は公共事業のバラマキとよくいわれますが、公共事業を比較してみますと、イギリスはGDPの1・6%です。ところが日本は6・4%です。国民総生産が500兆円とすると、どのくらいかは分ると思います。中央と、それに癒着している族議員とが中央でコントロールしていく関係になっているわけです。
これを絶ち切ろうと、おそらく今度の参院選で自民党政治に対する「ノー」の非常に大きな根拠は景気対策であるとか、さまざまな政策に対する「ノー」ですが、根本的には今言ったような利益配分請求、利益誘導型政治、これを絶ち切るために「ノー」と言ったんではないかと思いますが、それであれば幸いです。このように考えます。
それからもう一つ、イギリス政治は非常に中央集権的です。ところが日本の場合は行政が中央集権化しているということです。あえて言うなら、イギリスは行政は地方分散型である、政治は中央集権的である。日本は行政が中央集権化している、地方がそのバラマキによって分散化している。おそらく、主に行政の中央集権化が鉄のトライアングルを形成したのであろうと思います。
イギリスは政党のあり方もそうですが、中央集権化と言うと語弊がありますが、中央化と言いましょうか、これがいわゆるミクロの問題ではなくてマクロの問題をイギリス政治が取り扱う、あるいは大テーマが争点になるゆえんであると思います。
それと連動して選挙のあり方が日英を比べて違ってきます。政治テーマがマクロ的な国民共通のテーマになってきますから、政策パッケージとしての先ず党首を選びます。党首が中心となり政党の政策をつくります。政策パッケージを選ぶということは政権を選ぶことに直結しています。
ところが日本の場合は、例えば民主党を選んだ、だから民主党政権を選んだということにつながる可能性は少ないと考えざるを得ません。
選挙が政策本位、イギリスは選挙のたびごとではなくて、ことあるごとに野党の時代にも与党の時代にも政策プログラムをよく出します。特に野党の時はたくさん出します。政党そのものが政策中心にしたものが、一つのまとまりと言いましょうか、形成されます。
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