第16回講演(3/8ページ)

 

●日本経済には争点があっても政策化できない
 イギリス政治を見るとイギリスにはポリシーとウイッシュ・リストという言葉があります。せいぜいウイッシュ・リストに終わっています。ウイッシュ・リストは何々したい、こうしたいと項目を並べるだけの話です。具体的な細目についてのプログラムがないわけです。そういう意味で似たりよったりということになります。
 争点がないということは実は争点があるということなんです。それを政策化できない各政党、勿論責任政党は自民党ですが、野党第一党の民主党にもその責任はあると言わざるを得ません。
 従って、争点があるにもかかわらず政策化できないということが現在日本の政党政治のアキレス腱になっています。これを申し上げておきたいと思います。
 それからもう一つは1995年の参院選に比べて14ポイントくらい投票率が上がりました。これは新聞、雑誌をみても国民の怒りという表現が非常に大きく、いわば自民党政治に対する怒りが爆発した、こういう表現です。
 しかし怒りは感情です。この点を読み間違ってはいけません。感情はうつろいやすい、そうではなくてもっと深いところで国民が判断をして、そして今日のような14ポイントの投票率に表れたのであれば多いに評価すべきです。しかし、私は怒りとはそういうレベルで考えてはならないと思います。
 しかし、これは自民党に対してですが、戦後50数年を担ってきた自民党がたった14%の投票率の上昇によって大敗を喫するのは反省すべきで、そういう政党とは一体どんな政党だろうと感じざるを得ません。これは自民党の責任だけでなく、おそらく民主党始めとしてこんなに投票率が上がるとは考えてもいなかった。せいぜい上がっても2、3ポイントで46,7%がいいところだろうとの前提で、各新聞社やマスメディアが予測をしました。これは大外れでした。ある意味ではいい方に外れたわけです。
 イギリスでも選挙のたびごとに予測しますが、時々、大外れをする時があります。マスコミの責任ではありませんが、この大外れは私にとっては非常に面白かった。大々的にお金を使い、コンピューターを使って近代科学の粋を駆使して予測しても国民の、そして有権者の意図を汲み取れなかったのは機械に弱い近代科学に不信感を持っていた私にとって面白い結果でした。

 

●政治のカギにぎる無党派層
 自民党の大敗は事実ですが、では野党が本当に勝ったのだろうか、私の目からみると野党が勝ったとは思えません。民主党も予測より大幅に議席をのばして、それなりの得票率を得て議席を確保しました。しかし勝ったところまではいっていません。具体的な数字をみると、選挙分析の第一人者、慶応大学の小林教授が昨日発売の日本の『エコノミスト』に参院選の分析結果を出しています。その中で前回自民党に投票した人で、今回は13・5%が民主党に、前回社会党は19・6%、共産党に投票した人は12・3%、それから新たに選挙権を持った人が13・7%、前回さきがけに投票した人が35%、前回新進党に投票した人が22%、こういう人たちが民主党にいわゆるスイングしているわけです。
 しかし、その中で一番大事で、現在一番多いのは無党派層といわれる人たちです。この50%強の無党派層から民主党は10%しか獲得していないことが報告されています。ということは確かに11・4%しか獲得できていません。これは野党第一党たる民主党がしかと受け止めなければならない点だろうと思います。おそらく無党派層の得票によって、例えば知事選であれ衆院選であれ、動いていくだろうと思います。これをどう取り込むかが非常に大事です。その無党派層の社会的状況なり、あるいは経済的状況、物の考え方、これをどう取り込んでいくか、その上でどのような政策を打ち出していくかがおそらく問われてくるだろうと思います。
 今回の参院選の結果、民主党は確かに伸びました。その伸びた大半は現在の民主党が雑居部隊だから、かつての社会党、民社党など、いわゆる労組を中心とした下部組織、考えるとこの労組中心の選挙戦ではなかったのかと考えます。
 これには限界があります。従って、むしろ無党派層を11%しか獲得できなかった。そういう組織に頼らない人々を選挙の網の中にどういうふうにすくい上げていくか。逆に言うと、自民が大敗したのはせいぜい投票率を40数%にみて、従来の自民党の利権政治の中に組み込まれていた有権者のネットワークの中で勝負できると思っていたところにあります。これが逆に、民主党以下の党にも言えるわけです。残念ながら最も安定的な得票をしているのは共産党です。理由は、党の組織が一番近代化しています。それから政策局が一番しっかりしています。いわば私だけではなく、ロンドン大学におりました森島通夫という人が日本の政党の中で最も近代政党らしき政党は日本共産党だと言っています。
 しかし私はこれには期待することはできないと思っていますし、日本でも受け入れられないと思いますが、そういう政党になっていかないといけないと思います。

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