第15回講演(3/4ページ)

 

●観光のウラジオ。戦略的な価値は消滅
 さて、最近の状況からロシアと日本の関係の中で、ウラジオストクが今後どんな役割を演じるだろうか、という問題が一つあります。ウラジオストクは、商業港としての道をこれから歩いていくでしょうし、そして、又その周辺も自然環境はいいんです。そういう意味で新たな観光都市としての役割を持ってくるだろうと思います。
 ウラジオストクの州知事さんとは何回も会いましたが、「工業なんてつくるのはやめなさい、ろくなものをつくらないんだから、観光がいい」と私は言ってきたんです。観光は減るものがないんです。ドルだけ落としてくれるんです。一番いいと話をした。そしたら案の定、今、日本は手をこまねいてやらなかったんですが最近行ってみましたら、韓国がどんどん立派なホテルを建てています。日本は何もやっていません。日本の実業界はおっかなびっくりでなかなか手を出さないわけです。韓国とイタリアが非常に積極的に建設を手伝っています。
 しかも軍港がなくなった今、戦略的価値があるかと言ったらこの港はないんですね。どうしてかというと最近の状況から言ってウラジオストクから太平洋を抜けるために三つの海峡を通ると言いました。これ以外手はないんです。この海峡には、ソナーがすでに設置されています。それからアリューシャンに沿ってもアラスカまでソナーがズーッと設置されています。そこを船が通れば、どこの船がどういうスピードで通ったか、すぐ分かってしまいます。
 あらゆる面で、ウラジオストクから日本海を出るというのは全て情報はキャッチされてしまうんです。ですから、彼らとしてもウラジオストクにいることの意味は全然なくなって、外洋に出たいと思うにはカムチャッカに出る以外にない。それでカムチャッカの方に移っていったんだと彼らは言っています。
 今年行きましたらすぐに司令官の方から、「海軍の記念日にあたるからデモンストレーションをやる。見学に来い」と言うので、私も行きました。デモンストレーションと言うからあちこちから船がきてやるのかと思ったら、ウラジオストクに残っているやっと動く船を5、6隻集めてそこでデモンストレーションをやったんです。これがすごいんです。ロケット砲があったり、駆逐艦みたいのが2隻くらいがお互いにすれ違って赤い煙をもうもうと出すんですが「何をやっているのか」と聞いたら「日露開戦だ」と言うんです。それで「日本が負けたところだ」と言うんですね。しかし、「日本は負けたところなど少しもないんだ。負けたのはロシアの方だ」と言ったんです。そうしたら「これはショーだからそのつもりで」と言うんですね。
 外国にもほとんど公開していますから今、ウラジオストクは完全に軍港でなくなりました。
 当時、宗谷海峡を抜けて太平洋を抜けるには国後、択捉のところを通るんですね。歯舞、色丹のところは浅くて通れません。望星丸でも通れません。水深300メートルあるのが国後と択捉の間です。300メートル必要だというのは普通の船は関係ありません。しかし上から見えて重要なのは戦略潜水艦です。潜水艦は港を出てから隠密行動をとりますから行動がバレてしまったんではその意味がありません。したがって潜行したまま通れる海峡は国後、択捉の間300メートルの水深、あるいは択捉とその先の600メートルの水深、そこしかないんですね。ですから、北方四島のうち国後、択捉は非常に重要な価値を持っているわけです。
 ところが最近は、その戦略価値はなくなりました。どうしてかというと探査技術がどんどん発達したのでそこを通ってもすぐにバレてしまうんです。海の中でも原子力エンジンの水音が上がってきますから、もうその価値はないんです。ですから「国後、択捉に関しては完全に戦略的価値はなくなった」ロシアの人もそう言っています。
 こういう状況下で先程申し上げた日露関係の修復が始まったんです。日本海は平和な海に近いものにしたんですが、まだ近いと言っておきますが、さてそれでは北方領土関係はこれから一体どうなるんだろうか、という問題が残っているわけです。

 

●残る課題、北方領土返還
 経済交流は日露投資保護協定が、比較的、国がバックアップする方針でできるようになりますが問題は領土です。これだけが残っています。
 平和条約がまだ結ばれていないんで、平和条約の中におそらく領土の問題が必ず盛り込まれるはずなんですが全部盛り込まれるか分かりません。しかも返還という言葉は絶対に使えません。彼らは返還というと頭がカリカリしてしまいます。そうでなくても国境線の画定という言いまわしを、違う言葉を使えばまだまだです。中国との国境線もこの前画定したばかりです。そういうことで国境線画定という言葉を使おうと、この前も外務省の人たちと話し合ったばかりです。
 さてその時に歯舞、色丹が返ってきます。これは約束済みです。歯舞、色丹に関しては、日ソ共同宣言があります。これは鳩山首相とブガーリン首相との間で締結された共同宣言です。その第九条の中に「歯舞諸島および色丹島を日本国に引き渡すことに同意する」とはっきり書いてありますから、これについては問題ないですね。北方2島は問題ないわけです。これで実際に平和条約を結ぼうとしたわけです。そうしたら米国からクレームが入って「何で国後、択堤を放棄するんだ」ということになりました。「放棄するような条約を結ぶんだったら米国は沖縄を占領したままでいるよ」と、沖縄を自分たちの領土とみるということなんですね。こういう通告があったので、あわてて国後、択捉を後から追加した。これが一番うまくいかなかったきっかけになるんです。そうすると、その条約、共同宣言の内容が変わってしまい、意味がなくなってしまいます。それでソ連の方はこの共同宣言を破棄すると言ってきたんです。その辺から日本とソ連はこう着状態に入ったんです。
 こういういきさつを見ますと、国後、択捉以外は全部返ってくるであろうと思います。よく「正義と何とかに基づいて」と言っています。あれは条約という宣言を実際に尊重しようという意味なんですね。こう考えてみますと歯舞、色丹は必ず帰ってくるであろう。国後、択捉も返せと言わなければ、今後、北方領土問題をどう解決するかという問題があります。
 私は外務省の人たちと話します。ロシアのサプリンという極東担当の次官もそうです。その人は東海大の卒業生なんですね。そういう人とも良く話し合っているんですが、結局、国後、択捉は領土返還という形では返ってこないだろう、外交官も誰もそう思っています。返ってこないけれど、お互い潜在主権は認め合うことはできる、かつては日本人が住んでいた。現在はロシア人が住んでいる。それだけの事実はあるんだから、それぞれの時代は違うけれど、それなりの潜在主権は持っているわけです。これはおたがい認め合おうじゃないか、ということはできそうです。
 現在はロシアが管理している移民統治みたいなものですね。そういう考え方です。それで経済的に共同開発をやっていく、そういう所は問題ないだろう。きちんと平和条約で決めることはできない。できないけれどお互いに、その土地を利用して経済的な強力体制を作ることができる、ということになりますから、おそらく平和条約の中では国後、択捉についての、領土問題としての、決着はつかないのであろう、これは次の時代にもちこすであろうと思っています。

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