第34回講演(1/3ページ)
「癌治療の最前線」 こんなに進んだ前立腺癌の治療
高密度焦点式超音波療法(HIFU,ハイフ)
本日は、「癌治療の最前線:こんなに進んだ癌治療」という題目で講演するよう御依頼いただきました。私は泌尿器科医ですので、総ての領域の癌については網羅することはできません。私の専門領域である泌尿器科の癌で最も患者さんの多い前立腺癌に対する治療、特に私の開発しました高密度焦点式超音波療法(HIFU、ハイフ)について述べさせていただきます。
最初の症状
まず、これから5つの質問を、特に50歳以上の男性にさせて頂きます。
1)夜中にトイレに2回以上通いますか。
2)便器の前に立ってから尿が出るまでに時間がかかりますか。
3)小便が出終わるまで若い頃より時間がかかりますか。
4)小便する時にお腹に力をいれますか。
5)小便の勢いは若い時と比べて弱いですか。
質問に3つ以上ハイと答えた方はこの先もじっくりお聞きください。また2つ以上の方も将来の事を考え、じっくりお読みください。また、女性の方には直接関係無くて申し訳ないのですが、身の回りにこういう方がいらしゃらないかと思ってお聞き下さい。
私たちは普段、尿がたまると尿意を感じ、そしてある程度我慢ができ、自分の都合にあわせて排尿し、そして一瞬の爽快感を味わい、そのことを特別意識することはありません。しかし、50歳以上の男性の中には、次のような経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。例えば駅などの公衆トイレで、隣はどんどん交代するのに自分の後には人が並んでしまう。あるいは、バス旅行などでトイレ休憩まで我慢できない。最初に書いた質間の内容や、こういった経験をお持ちの方。これが前立腺の病気の最初の症状です。前立腺の病気前立腺の病気として代表的なものとして、良性腫瘍の前立腺肥大症と悪性腫瘍の前立腺癌の2種類があります。つい2年程前に、天皇陛下が前立腺癌で開腹手術をうけられましたが、残念にも手術後1年半ほどで前立腺癌腫瘍マーカーである血清前立腺特異高原(別名PSA)値が上昇され、現在ホルモン療法をうけられています。
前立腺とその働き
前立腺は男性のみに存在し、膀胱の出口に尿道を取り巻くように存在するクルミ大の大きさで、栗のような形をしています。肛門からすぐ入った直腸と接していますので、肛門から指をいれて触ることができます(この検査を直腸診と言います)。その働きは、精子を守ったり、精子の運動を助ける前立腺液を作っています。また膀胱の出口を開閉することで尿の排出も調節しています。この前立腺の成長は男性ホルモンに依存していますので、若いころは非常に活発に活動し、生殖に深く関わっています。
前立腺肥大症と前立腺癌
20-30歳代に生殖という子供をつくることに深く関わっていた前立腺ですが、その後40-50歳位から次第に大きくなり、丁度前立腺の中を通っている尿道を圧迫し、最初に述べた色々な症状が出てきます。原因は、加齢に伴うホルモンのアンバランスと言われていますが、はっきりしたことはわかっていません。この大きくなる病気として、良性が前立腺肥大症、悪性つまり癌として前立腺癌があります。
前立腺肥大症と前立腺癌の違い
前立腺癌は、主に前立腺の外側の「末梢域」から発生する悪性の腫瘍です。一方、前立腺肥大症は内側の「移行域」と呼ばれる部分から発生します。しかし、前立腺肥大症は良性の腫瘍ですから、進行して前立腺癌になることはありません。両者は全く別の病気です。前立腺肥大症になったとしても癌になることもありません、しかし両者が合併することもあります。
初期の前立腺癌の症状はほとんど無症状である。
やっかいなことに初期の前立腺癌の症状はほとんど無症状です。ある程度進んできて前立腺が大きくなってきた時に、初めて最初に述べたような症状がでてきます。残念ですが、そのときは多くの場合相当すすんでいるといえます。またさらに進行した場合、骨に転移した結果、腰痛などの症状で整形外科を受診して初めて前立腺癌が発見されることもあります。
第34回講演(2ページへつづく)
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