第33回講演(4/4ページ)

 

改革の方向性
 改革の方向性は、そう簡単には出てくるわけではありません。ただ、問題点の指摘はしておくべきだろうと思います。

 政府の改革案、民主党も改革案を出しています。民主党案はスウェーデンの年金制度とそっくりの形で出ています。それぞれ問題点があります。
 政府案と民主党案は基本的な改革の観点はどのようになっているか。政府案は現行制度の微調整ということになっています。抜本的な改革とはいえません。改善しようというところです。
 民主党案は、あるところは抜本的なところがあります。これは個人単位に一本化した所得比例年金ということで、実は政府与党案は国民年金、厚生年金、共済年金と3本が別になっています。民主党案が一つしかないのは制度を一元化して、同じ制度を適用しようというものです。その時に税を財源とする最低保障年金というものを導入しようとするものです。

 数年前スウェーデンが所得比例年金に一本化して、その時に所得比例年金ですから保険料ゼロの人はまったくゼロになってしまいますから、そこで最低保障年金を足すということで、これを税金で賄うということです。こういう制度を入れています。
 保険料の負担をどうするかですが、現行制度では現役世代の保険料で年金給付を賄う、いわゆる賦課方式です。ただし、税金で基礎年金の3分の1を補てんしているわけです。これを2009年度までに2分の1に引き上げることを検討するということになっています。

 厚生年金は保険料率が13.58%すが、これを毎年0.354%づつ引き上げて17年度に18.3%にしてそれ以上は上げない。これは年金財政が苦しくなったらジワジワと上がっていくのは一番の不安なんです。始めから高いなら高いで、これ以上あげませんという方が人々は安心です。或いは将来の生活設計がたてやすい。それをもっと徹底しているのが民主党で、民主党は18.58%をこれ以上あげると、個人も大変ですけど、むしろ中小企業が大変になります。そこで13.58%を固定しますということを提案しています。

 それでは、財源が足らなくなる。どうしますかということです。2007年度から年金目的の消費税を導入する。そして、所得比例年金が一定額に達しない人には消費税で上げた財源をあてて最低程度を保障する。最低保障年金6万6000円程度です。ですから今の国民年金がフル支給されたのとだいたい同じです。そのために当初税率3%の消費税を考えているわけです。

 どれくらい給付するかは、政府案では現役世代の平均手取り年収の50%は確保したい。民主党も50%程度は確保したいとなっています。ここのところは政府案と同じです。

 

問題点と課題
 年金制度が職種別に別れています。これを一元化して国民に同じように適用するのが民主党案ですが、理想としては分かりますが、過去にたくさんの年金保険料を納めた人もそうでない人々も同じように適用するのはどうかという問題があります。
 そこで、民主党案では2009年度からスタート。現制度の給付は40年程度併存という形で激変緩和をしているわけです。このようなことは考えているということです。
 しかし、それ以上の問題があって、自営業者の所得をいかにして正確に掴むか。今でも自営業者で事業所得税を納税申告している割合は約2割しかない。所得が掴めないまま年金制度を導入すると自営業者は全部低所得者扱いになって、最低保障年金の対象になってしまう。そうすると財源も大きくなるという問題です。
 消費税を3%上げたくらいでは済まない。5%、6%くらいあげなくてはならないかも知れないという問題があります。

 負担はこのくらいで給付はこのくらいですという、しかし、どうしたらこのようになるかという関係を示していません。あくまでも目標なんです。13.58%でやっていて、保険料がどれくらい入って、だから給付はこれくらいできるという具体案がまったくないという問題点もあります。

 政府の案も、国庫負担を2分の1にしますといいますが、財源をどうするか、これも曖昧です。小泉さんが総理の間は消費税は上げないといっている。そうすると消費税では賄えない。他に何があるかというと、大きな税金は所得税です。しかし、所得税は今でも重税感があります。公明党は最大25万円までを所得税の定率減税を廃止しようといっています。確かにこのような考えもありますが、これはちょうど働き盛りの中堅所得者がこの恩恵を受けていますから、どのくらい受け入れられるかという心配もあります。

 政府の場合にも、2007年以降に消費税を含む税制の抜本改革を行って財源確保といっていますが、どうするかまではいっていない。

 民主党案が示す年金制度の図はおかしいと思います。最低保障年金がある段階から下がってきますが、これと比例部分のカーブが緩くなるところが一致していない。これは図が下手だということで済むかも知れませんが、縦軸横軸の目盛りが同じだとすれば、所得比例年金が1対1の割合である必要はありませんが、カーブか45度線ですと、納めた保険料総額と貰える所得比例年金がほぼ対応しているわけです。
 ところが上にいくと、政府の方がそれより上にいっているということは、政府の給付部分がありますから納めたよりはたくさん貰えるということになる。この民主党案でいくと落ちてしまうところがある。一定の所得の人々は保険料を納めても年金はその割には貰えないという層ができてしまう。どのくらいの層になるか分かりませんが。もし、このような層が発生すると、これは猛烈な反対を受けるということになります。
 つまり、最低保障年金の恩恵はどんどん減っていって、貰える年金の額は比例以下。これでは実効性は恐らくないであろうと思います。つくった人に聞いてみたいと思います。

 

公的年金制度の見直し
 結論はすぐにはでない。考慮すべき事柄として、少子高齢化がいやでも進む。どんな政策をとっても子どもの数は増えませんし、増えたとしてもその効果が出るのは何十年後です。そうすると、この人口動態の中で何をやっていくかを考えなければならない。

 経済成長率は昨年あたりから少し上向いているというんですが、あてにはできない。少なくても高度成長は無理。そういう中で実現可能な制度を組み立てていく必要がある。そして、就労構造についても、社会保険の適用条件を緩めるにしても、恐らくもっと多様化していくであろう。朝、9時から5時まで働く人にとっては減っていくのではないかという気がします。自宅でコンピュータを操作しても仕事ができるということですが、多分いろいろな人が増えている。そうすると、保険料を納めてくれる人はへってくるのではないか。これも考えておかなくてはならない。

 制度が一元化するのが分かりやすいというのですが、過去の経緯がある。人々が過去の制度のもとで将来の生活設計をしてきたのに急に変えられては困る。いくら激変緩和の以降期間を設けても、不満が残る。他方で、そのようなことをいっても制度が存続しなければ意味がないということがあります。
 保険料を上げないで、給付を下げないのは無理です。さらに、世代間の公平を考えれば、現役世代の極端な負担増は避けたい。そうすると、給付を切き下げることはどうしても出てくる。ただ、切り下げも困った人がたくさん出てきては困ります。

 1947年から3年間くらいの団塊の世代があります。この人たちが60歳で定年退職する。定年は65歳になるかも知れませんが、この人たちが65歳に達するころから年金財政はかなり苦しくなります。逆にいうとその前に改革をしていく必要があるということです。
 個人がそれぞれの立場から損だ得だというだけでは解決できない。もともと社会保険は個人間、世代間の相互扶助の制度です。自分でやった方が得だという人がたくさんいるわけですが、それでは保険制度が成り立たない。その中で、絶えられないほど不公平になっては制度が持ちません。そういう意味からいうと、公的年金の問題は今回のテーマにあるような「どうなるか」というよりは「どうするか」あるいは「どうすべきか」ということを考えて設計し直す。そして、その間の移行措置をどうするかを具体化していくことが必要なんです。

 社会保険制度をどうするか、或いは税金をどうするかということは、我々の社会の中でどう助け合おうか、どんな社会をつくるかにつながってくる非常に基本的な問題なのです。

 

この内容は2004年4月13日シャトレー・イン横浜で行われた講演を記録したものです。講演者の話の趣旨はなるべく忠実に伝えるように心掛けていますが、文章化するにあたり、その性質上多少異なる場合もあります。尚、記事の掲載に誤りのある場合は講演内容を優先するものとし、お詫び申し上げます。

次のページで新規参加者を紹介しています