第25回講演(4/4ページ)

 

 ユニクロはウエアを中国で製造し、コストダウンして大量に売っている。従来のスーパーやディスカウントショップよりも売り上げを伸ばして高く評価させている。ユニクロが優れているのは危険負担を負っているからだ。外国で製品を作る。当たるか当たらないか分からないのに24色とか30色もあるウエアを作っている。特に繊維は原綿から糸を作り、布にして縫製をして洋服を作る。まさにさまざまなプロセス、さまざまな業者が関与している。日本ではリスクを少しずつ負担するシステムになっている。例えば染め物業者は染め物だけでいい。しかし、もしやる気があるのなら、もっと事業を手広くして危険負担を背負っている。

 デパートは返品の問題がある。私が公取委の仕事で某デパートを視察した時、整然とした倉庫の隅に山と積まれた商品があった。これは返品だという。売れないのを分かって仕入れて、そしてやはり売れなかったと平気で返品する。デパートが全くリスクを負担していない。これでは本当の商売とは言えない。商売とは責任を持って仕入れて売れなかったらその責任をとる。このことをやっていない。このことを考えるとユニクロはただ安いからではなく、糸から製品、販売まで全部リスクを負担している。
 従来、リスク負担を嫌がっていた人が集まってできた品物と比べたら、ユニクロの製品は限りなく安くできることになる。ここで利潤が上がるのは安くできたことは確かだがリスクを負担したことが非常に重要な点だ。

 これからのビジネスは企業家精神が非常に重要になる。敢えてリスクを負担して確実な利益につなげていくということだ。

 過去の成功例に引きずられて判断を誤ることがある。この点も注意が必要だが、具体的に「痛み」を乗り越える哲学は自分で責任を持ち、積極的にリスクを負い、儲けをしっかりと計算して事業を始める。新しい事業に挑戦することしか方法はない。なかなか難しいが、これがあたりまえのビジネスだ。竹中大臣は今回の構造改革で「当たり前のことを当たり前のこととしてやるんだ」と、言っている。

 私は流通業を中心に中小企業庁の仕事をさせてもらった。色々な省庁があるが、中小企業庁は非常に面白いところだ。私のような学者にしてみれば、横断的にいろんな業界が一緒に勉強できる。まず、構造改革のプログラムに便乗していこう。決して「駄目だ、潰れてしまう」などと考えずに、むしろこれをチャンスだと考えていく。

 危機こそ最大のチャンスだ。7つの改革プログラムの中に都市再生問題がある。田舎にいくと立派な道ができ上がっている。しかし必要がない。ところが都心はゴミゴミして狭い道がいっぱいだ。狭いアパートがひしめいている。この格差は非常に大きい。そのために小泉内閣では都市の再生を掲げている。都市の生活などの必要なところに必要な手立てを投入する考え方を持っている。これから東京、横浜などの都市は色々な面で改善が行われる。住みよくなっていくはずだ。交通渋滞も緩和される。これは非常に重要な点だ。自分は都市問題に関係ないと思わず、都市の改革に少しでも関与するチャンスがあったら活かすべきだ。長いタイムスパンでの考え方だが、都市はさらに改革され、便利で豊かになる可能性がある。石原都知事の考えでも予算をつぎ込んでいる。これを機会に仕事をしていくことが考えられる。

 さらに高齢者の問題が挙げられる。介護サービスにさまざまな業者が参入してきている。昨日まで学習塾をやっていたところが今日は老人を世話している、こんな状態がくるかも知れない。介護に関係があれば、そこから新しいビジネスチャンスを見つけだしてみるのもいい。これが便乗経営だ。

 さらに民営化が進む中では、例えば今まで郵政省と関係する業者が長年にわたって仕事をしてきたようなこともなくなっていく。競争入札制度を導入して、いい業者と仕事をしたいと思っている。これがチャンスである。郵政でもどこでも、国と仕事ができるチャンスが巡ってきた。この点でも“廊下トンビ”となって省庁の廊下を行ったり来りして宣伝してみるいいチャンスだ。

 もっと安くできるのでは、というのが改革の趣旨である。いいものを安く提供できる業者を使うでしょう。そこで競争が生まれる。このことを考えれば、民営化や規制緩和に便乗する今が絶好のチャンスと言うことができる。

  医療サービスは急激に増えている。医者でなくても医療ができる。病院の清掃をする会社がある。そこが非常に優れていて、医者、看護婦を含めて病院内の塵、埃をなくそうとする運動を展開した。このことで院内感染を防ぐための清掃になった。たぶん、当初は汚い病院を何とかしなければとの考えが、今では院内感染を防ぐためのサービスは、技術的にトップとなっている。
 塵、埃を取るだけの会社がトップ企業になっている。しかし、残念ながら米国で生まれた会社である。日本の主要な病院を殆ど独占している。医療サービスの会社はこれからもどんどんでてくるはずだ。

 慶応大学の島田晴男先生はこの問題を熱心に議論されているが、生活の質が変わってくるわけで、生活関連産業の中でのサービスはいくらでもでてくる。
 共働きも増え、生活のパターンが変わってくる。これに合った需要がいくらでもでてくる。
構造改革に便乗するくらいの気力、気概で頑張って欲しい。

 整理縮小型を弁護士から聞いた。中小企業が厳しい時は支出を抑えることしかない。それが成功の秘訣だと言う。一つひとつ中身をチェックしていくと抑えることができると言う。これは理論ではなくて経験からでてきている。支出を抑える中に銀行への借金返済があるが、曰く、銀行から借金していても返す必要を感じてはいけないと言う。何とか借金だけは返そうと考えると倒産してしまう。借金より事業構想力によって新しいビジネスを始められる。これを銀行に説得しろ。そうすれば銀行も支払いを猶予してくれるかも知れない。銀行にしても不良債権を持つことは厳しい。会社を倒産させることは本来やってはいけないことだ。私も住宅ローンを抱えている。この返済を考えていると仕事が手に付かない。
 中小企業の場合は特にお金を使わない。そしてビジネスを縮小する。このように考えたらどうか、と言っている。

 資源充実型は自社の売り物は何かと言うのがある。その売り物がないのであれば、それを充実させていかなければならない。いい職人がいればこれを増やしていかなくてはならない。そうすることが不況に打ち勝つ重要なポイントとなる。職人はいないがカネがあると言うのなら、カネの遣い方を積極的に考える。この不況下で能力がありながらリストラにあった人たちの再就職先が大きな問題となっている。中小企業にとって、そのような人たちを雇用するチャンスが巡ってきたとも言える。大企業で働いてきた人を中小企業が受入れるのはさまざまな問題が生じているが、優秀な人材を受入れることができるかも知れない。人材という資源を充実させる、またとないチャンスだ。

 構造改革は小泉首相に任せていただけでは駄目で、個々の企業が経営改革をしていくことで、初めて可能になってくる。本来なら、小泉首相がこの点を言わなくてはならない。とにかく“「痛み」だけを分かちあう”だけでは残念だ。経済のシステムを変えるには政治を変えなければならない。新しい意味での自民党ができつつあると評価されているが、自民党型の政策決定プロセスでは駄目だ。従来型の意思決定プロセスでは駄目なことが分かったということだ。経済のシステムが変わるのに、政治のシステムを変えない訳にはいかない。

 政治と経済の関係、この点から考えて中国の経済発展は危ういと感じている。中国は社会主義的な市場主義をとっている。上層部は集団主義的な政治を行っている。下の方は自由な経済システムができ上がって繁栄を続けている。政治のプロセスでも民主主義的な意思決定が中国に入っていかなければ、中国の今の経済発展は難しいであろう。日本はこれとは逆に、経済のシステムが変わるのであれば政治も変わっていかなければならないということだ。

 

この内容は2001年9月26日シャトレー・イン横浜で行われた講演を記録したものです。講演者の話の趣旨はなるべく忠実に伝えるように心掛けていますが、文章化するにあたり、その性質上多少異なる場合もあります。尚、記事の掲載に誤りのある場合は講演内容を優先するものとし、お詫び申し上げます。