第19回講演(6/6ページ)
●日本のベンチャーを成功させるには社会の価値観を変えること
米国ではベンチャー育成創出があります。シリコンバレーへ行った企業の人が「ベンチャーはいいですよ」と言うんです。ベンチャー会社はいいんですが、日本でその方式が本当にいけるかということなんです。
先ず第一に社会の価値観が根本的に違うんです。教育、労働概念が違うんです。スタンフォード大などにかなりトップクラスの高校生が行くんです。さらに卒業して成績トップクラスの学生達が卒業と同時に自営業をやるんです。ベンチャーです。日本であれば省庁関係、大企業です。全然、社会の価値観が違うんです。多様な価値観がアメリカなんです。
一方、日本を見ると幼稚園、小学校から塾へ行って、偏差値の高い学校へ行って、安定した生活をおくりたい。つまり、単一価値観の社会なんです。こういう傾向が強い。「勉強とは、社会のために志望校を決めることなんですか?、あるいはこれが日本人の人生目的なんですか?、みんなと同じ基準なんですか?」と、外国特派員からよく聞かれます。何処かがしてくれないから悪いと、たえず依存性が強いんです。こういう社会と自立性を中心とした会社とではまるで価値観が違うんです。
日本式ベンチャーをどうしたら成功させられるかということを考えなければいけないし、中小経営者が考えなければならない問題です。技術、商品開発を知らない評論家みたいな人が多いんです。こういう人は新聞記事をいっぱい書く、テレビに出る。そして「ハイリスク、ハイリターンを狙いなさい」と言う。自分でやってみなさい。そんなに簡単にはできません。
私の父はNHKの技術研究所にいて、自分で特許を400から500件持っています。それで、小さなベンチャーを始めてしまったんです。この時、私はまだ子どもでした。日清のチキンラーメンが出た頃なんです。夜になると、これがポンと置いてあるんです。父も母もベンチャーの立ち上げで働いていますから忙しい。このラーメンを見る度に、ベンチャーとイメージが絡んできて「生やさしいものではないぞ、厳しいんだぞ」ということが私の脳裏にあるんです。
「ハイリスク、ハイリターン」なんておっしゃる評論家の方は本当に経験があるんでしょうか。甚だ疑問です。つまり、米国式ベンチャーのいいとこ取りをしようと思っても駄目だということです。
●得意な技術を活かすお手伝い、それが大学の役割
大手金融機関と総合商社からなる企業があります。そこの代表の方がみえました。そして「一日の研修で技術を見極める目をつけてほしい」と言うんです。そんな馬鹿なことできませんよね。彼の発想は極めて短期回収なんです。「5年で回収できないものは相手にしない」と、はっきりしているんです。そういうことをガンと言われても、技術というものはポンと出るものではないんです。
銀行で一番大切なことは、抱えている顧客が健全に成長していくことが、長い目で見れば一番大事なことです。必ずしもベンチャーで、世界を騒がせるような発明、そればかりを狙っても無駄です。アメリカだってそんなに出てないです。
どういうこと、何が大事かというと、今ある得意な技術を活かして、そこに大学としてお手伝いできる先端技術や、新しいものをつけながら、決してハイテクである必要はないんです。ローテクだっていいんです。それを次の事業展開に結びつけることが難しいところです。しいて言うなら、ゼロから始めるベンチャーではなくて、むしろ社内で始めるベンチャー、あるいは第二の創業という感覚で始める方が成功率は高いだろうと、そんなように思っています。
特異技術があれば次の展開ができます。ここまでやってくる間にかなりのノウハウが貯まっているはずです。それと、是非私達とすり合わせてください。そこで新しいものをみつけてください。これが企業の財産です。これで闘うことが重要なことだと思います。
従来の技術は連続的な変化でした。最近は革新的な不連続なものです。以前は真空と金属を中心とした真空管、それがトランジスタという半導体に変わった。それが一気にIC、コンピューターになりました。電子計算機なんて、学生の頃は何て凄いものかと思っていましたが、結局今はパソコンとして、通信には欠かせないものになっているんですね。
技術の中には連続的なもの、不連続的なものがあります。その辺を見極めながら、技術革新をやっていかなければなりません。そして、新規事業をやる時は、得意分野を全面に出してください。そこで、それを糧として新しい技術につなげていくのが日本のベンチャーとしては可能性が高いやり方だと思っています。
結論として、社内ベンチャーと第二の創業感覚で新事業化するのが一番です。そして大学を利用してコストパフォーマンスを上げてください。研究投資額は人件費、それも何十分の一かですむと思います。
それと、公試を利用した方がいい。しかし、相手はお役人で現場を知らない人達です。一方、ハードウエアのホコリをかぶっているのも地方の公試です。積極的に大学と連携しながら、使っていってください。
それから、公的資金はいっぱいあります。これも、普段税金をたくさん払っているんですから、それを取り戻すくらいのつもりで利用するべきです。大学と組んだ結果、補助金を利用できるケースがあります。是非、そういうものに積極的にチャレンジしてください。その情報も大学からお教えできます。
湘南信金の場合には、理事長がバブル時期にいろいろなことをやって、200億円ドブに捨てたと、それを考えたら10億円を企業に投資したって、それで何かか生まれるんだったらいいと、極端なことをおっしゃる。それならそのようにやりましょうということです。
金融機関も最近多少変わってきて、東海大には毎年80社くらいが見学に来ますが、終わった後の交流会で、あさひ銀行などは理事の方がこられて「研究や連携をする場合は当行が優先的に融資しましょう」と言うところまできています。ですから、技術評価というところにもようやく目がさめて、気づいてきたなという感じです。ただ、気をつけなければいけないのは短期回収ですから、この辺はくれぐれも忘れずに銀行とつきあってください。できる限り公的資金を導入していきましょうということですね。
一例で言いますと、大田区にあるベンカンという会社は若手の研究者が2、3年ほど研究をやりに来ていました。そのうち、面白い現象を発見して水素吸蔵合金を見つけたんです。「真空技術に使えないでしょうか」と言う。長距離輸送管があります。熱を送るものですが、熱を吸収してしまうと価値が下がってしまいます。ということで、真空二重管にするんです。魔法瓶をうんと長くしたようなものです。その管をどうやって真空にするか。ドイツでは一部、地下に埋めて真空ポンプにしていますが、とても採算に合いません。そこで、中を水素でいっぱいにしてから合金を入れて真空にする技術に挑戦して、これがうまくいったんです。通産省から年間1億2000万円貰っています。この会社は研究室をつくる余裕がなかったので、湘南校舎の空いている部屋に入って貰って、ここに研究室を持ってきてしまいました。そこで、今はそのお金で6人が研究し、また、次のプロジェクトとして研究を続けています。
また、これも小さな企業で、非常にいい技術を持っていて、高純度のアルミ管をつくって、このアルミ技術を通産省に紹介して、これも補助金が年間1億円です。これは大変でした。報告書なんて作成したことのない小さな会社ですから「困った、困った」で、全部大学の担当です。報告書を一緒に書いて、通産省に一緒に行った。一緒に闘えたというのが、いい経験になって残っています。
●ますます活発化し、質を高める産学連携
研究推進という立場でいろいろ話しをさせて頂きました。実は湘南キャンパスに17番目の校舎が建とうとしています。17号館です。日経新聞の全国版でも取り上げてくれるとの取材がありました。
ここに入る先生は誰でもいいというものではないんです。研究をやって頂いて、しかも企業、あるいは公的なプロジェクトを持ってくる先生方に優先的に使って頂く。これで公募したんです。かなり厳しい評価をしたんです。
研究は社会と深く連携して、交流して結果がよかったら社会に役立つ大学として、ひとつの企業としてやっていきたいと考えています。
大学の役割には研究と人材育成の面が同時にあります。企業から「社会人として育成してほしい」と言うなら指導もします。
相模原市が産学連携のセンターをつくりました。通産省の産学推進の第一号です。そこで対応できないものは「是非東海大でやってください」という話しも出ています。相模原市が抱えている中小企業の高校卒の人には大卒、大卒の人には大学院レベルのセミナーをやってほしいという依頼もきています。私達はこれも何とかやっていきたいと考えています。
産学連携は企業のための役立つ研究をやろうと思うでしょうが、そんなことではないんです。私達は基礎研究をしています。基礎研究の積み重ねがあるからこそ企業が何か問題にぶつかった時、お話しして活躍できるんだろうと思います。決して企業のためにやっていません。この点は理解しておいて頂きたいと思います。
本日はありがとうございました。
この内容は1999年8月3日シャトレー・イン横浜で行われた講演を記録したものです。講演者の話の趣旨はなるべく忠実に伝えるように心掛けていますが、文章化するにあたり、その性質上多少異なる場合もあります。尚、記事の掲載に誤りのある場合は講演内容を優先するものとし、お詫び申し上げます。 |
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