第39回
2006.4.26 ホテル横浜ガーデン

東海大学政治経済学部長
教授 井上 孝 先生


神奈川県出身 1942年4月26日生まれ 63才
早稲田大学第一政治経済学部経済学科卒業
早稲田大学大学院経済学研究科博士課程修了
玉川大学助教授、東海大学助教授を経て、
東海大学政治経済学部経済学科教授
東海大学教学部長(1997〜2001)
政治経済学部長(2001〜現在)
神奈川県大磯町教育委員長、神奈川県教育委員会産業教育審議会会長、等を歴任

第39回講演(1/4ページ)

 

「日本人のモラル・品格を問う」
 社会規範の乱れが日本を駄目にする

 政治経済学部の井上です。

 少子化が進んで厳しい状況だ。今年度の入試も以前に比べ大分志願者が減ったり、競争倍率が減ったりしている。皆様方の時とは違い最近は門戸も広くなったせいでもある。多くの学生を採りたいが、最近は神奈川県は絶対数が減っている。東京、千葉、埼玉と首都圏が比率としては多くなった。私はかねがね東海大学は全国型の大学であるべきだと思っている。私の出身大学も全国から学生が集まっていて、どちらかと言えば全国型でお国柄がでる。大学としてはいいことだと思っている。

 97年から4年間ほど教学部長にあった。この時、カリキュラムの改革等に関して仕事をしたが、東海大学は常に全国型の大学であるべきだと主張した。
 建学祭で学生から声を掛けられ、県人会連合会の部長を引き受けている。神奈川県出身の私が神奈川の大学にいて県人会はピンとこないが、東海大学はあちらこちらから集まっていて、良い大学だと思っている。規模の大きな大学ゆえに大変なところがある。創立は63年で、1942年だ。これは自分と同じ年で、覚えやすい。創立63年は大変新しい大学だ。

 先般、「私立大学の源流」と言う本がでた。私立の大学は必ず建学の精神、建学の理念があるが、志すと言う意味で、どういうことからできたかを追及してみようと言うことで、私の早稲田の先輩がやろうと言って声を掛けてくれた。早稲田、慶応、同志社、日本女子大、それと東海大の5校。私が東海大学のところを担当した。その時にも書いたが、学生数の多い大学のベストテンで新しい大学で圧倒的に多いのは2校で東海大と近畿大だ。他の大学が1890年ころまでに創立しているから飛び抜けて新しく、東海大は60数年のほぼ4分の3から5分の4近くを創立者が教育にも経営にも関わっていた。これは非常に珍しい特徴だ。
 新しい大学、大規模な大学は100年いかなければいけないし、また自分たちが関わってきたことがいつまでも存立していることは大事なことだ。
 このようなことを考えながら、微力ながら学部の担当者、責任者として頑張っている。冒頭にこのようなことを申し上げて恐縮だが、是非みなさんのご支援をいただきたいと改めてお願いを申し上げておきたい。

 「日本の道徳と日本の倫理観」これは私が選んだテーマではない。(望星)事務局から何か話ができないかとの要望だが、非常にタイムリーなテーマだと思う。香取先生からの依頼だが、私が話せるような内容ではないと申し上げたが、「どうしてもやれ」と言うことで引き受けた。
 どうして私がと思ったが、私の専攻は理論経済学と経済学説史で経済学の歴史を学生に教えている。これは新しい学問で、おおかたの説はアダム・スミスが国論を書いた1776年くらいが最初で、もう少し古くても重商主義とか重農主義の学者のケネーが経済評を書いた1758年、いずれにしても18世紀の半ばくらいが経済学の体系が始まる最初かなと思うと、たかだか250年くらいの歴史だ。しかも経済学は独自のツールを殆ど持っていないで既存の学問を使う。最も影響を受けたのはニュートンの物理学、力学だ。これらを使ったり、生物学、数学、哲学等の既存の学問から問うと言うことをやっている。
 時々の経済問題に学問的、経済学として貢献したり、あるいは意見を言うことができたかなと言うようなことを学生に話している。そうすると倫理、道徳などは私の場違いと言うことになる。ただ、目をつけられた心当たりは学部長に就いて6年目に入るが、学生あるいは受験生等に配るものに「日本の現状あるいは世界の現状をみて確たる道徳と倫理観を持った学生に育てたい、あるいはそのような卒業生として社会に送りだしたい」と書いている。どれだけ効果がでているかは分からないが、それが一つ。
 もう一つは19世紀の末ころ、いわゆる新古典の経済学と言われるイギリスの経済学の一派の創始者であるアルフレッドマーシャルがケンブリッジの正教授になった時の就任演説で学生たちに言った有名な言葉がある。「およそ経済学を志すものはクールヘッド、冷静な頭脳で、バット、ウォームハート、温かい心を持たなければ意味がない」と言っている。

 マーシャルは大変豊かな家庭に育ち、本人も豊かな生活をした人だが、年中、ロンドンの貧民街に足を運んで実状をみると言う人であった。私は新入生に「クールヘッド、ウォームハート」は必ず話しをする。これは現在の福祉とかを念頭に置いているのではなく、経済活動あるいは政治、あるいは経営の学科で勉強しようとするものはそのような意識を持たなければ勉強の意味がないし、またモチベーションも本来持てないはずだ。 
 政治、経済、経営学のテクニカルな、学問的なことに対して道徳的なことを言っていたので、この点が何処かで目についていたのではないかと思っている。

 そのような訳で、少し私の考えていることを話したいと思う。

第39回講演(2ページへつづく)