第24回
2001.4.12 シャトレー・イン横浜
東海大学健康科学部長
山林 一 先生

大正15年生まれ
昭和24年 大阪大学医学部卒業
平成 5 年 東海大学医学部教授 東海大学医学部副学部長
平成 7 年 東海大学総合医学研究所教授 健康科学部準備室長
平成11年 東海大学健康科学部長

●社会における活動
 日本内科科学会名誉会員  日本呼吸器学会名誉会員  肺・心肺移植関連学会協議会議長


 

21世紀の医療 〜遺伝子医学を考える〜

 

 私は昭和48年から伊勢原に勤務している。21世紀の医療について話をすることにする。

 21世紀は医療に難しい問題がでてくる。世界の人口は約60億人である。50年も経てば90億人になると予測される。増えるのは殆どがインドネシア、インド、中国、アフリカといったところで、反対に日本の人口は減っていく。人口が増えると食糧、エネルギーなど深刻な問題が生じてくる。そして、高齢化になっていくことも非常に問題だ。高齢社会への動きは日本が世界一速い。高齢者が病気にかかることも大きな問題になる。

 医療経済についても問題だ。今、日本は医療費に約30兆円を費やしている。それでも米国に比べるとGDP比で半分くらい。ヨーロッパに比べると3分の2くらいである。日本の医療費がこのまま増え続けていくと50年後には120兆円くらいになる。日本の国家予算が今、約85兆円だから、その倍を医療費で遣うことになってしまう。65歳以上の高齢者が70兆円くらい遣っていくと思われるから、国家予算を投じるのと同じことになる。このままでは医療費が維持できない時代がくる。厚生労働省は医療費を抑えようと苦労しているが、日本の医療は非常に特殊である。それは医療費が高いということだ。

 日本の保険制度は誰でも病院に行けて世界的にみても良い制度だが、これが逆に問題になっている。病院のベッド数が非常に多い。米国の3倍、ヨーロッパの2倍ある。70年代からベッド数を増やしたが医者や看護婦は増やさなかった。逆に欧米はベッド数を抑えて医療従事者を増やしていった。

 今、東海医大はおよそ1200床で2200人の従業員がいる。医者は約400人、研修医を含めるともう少し多くなる。看護婦は800人である。米国の大学病院と比べると、この規模だと従業員は7000から8000人となっていて、その内、医者は2000から2500人となっている。日本は中身が非常に貧しいということだ。

 日本ではレントゲンやCTなどの高額医療機械の保有率は世界のトップレベルにある。個人病院でCTなどを設備しているところは、世界中何処を探してもない。日本の病院経営は技術料で払われるのではなく、検査と薬で払われることで成り立っている。薬価が米国の5倍くらいで、医療材料も非常に高い。例えばカテーテルは15倍くらいである。日本は異常な医療を行っている。それが現状だ。

 21世紀医療の問題で臓器移植が挙げられる。日本でも臓器移植法が法律化された。しかし、今のところ12,3名である。まだ非常に少ない。欧米では年間2500から4000例くらいが臓器移植されている。米国は4万人の人が臓器移植を待っている。
 それから、エイズが大きな問題になる。これは感染と発病が別になっている。免疫の機能によって個人差がある。このために発病しない場合もある。感染しても発病を抑える良い薬ができている。先進国でのエイズ死は減ってきている。ところがアフリカは3人に1人がエイズにかかっている。ところが発病を抑える薬は非常に高い。アフリカで産まれてくる子は3分の1がエイズにかかって産まれてくる現実がある。

 また、21世紀は遺伝子治療が発達するであろうと言われ、医療を大きく変えると言われている。人生観、社会観、生命観にも変化が起こることが予測される。

 人間はチンパンジーを産まない。日本人からは日本人の子が産まれる。これが遺伝だが、遺伝の概念は1800年頃までなかった。それまでは人間は神が作った。突然できたものと思っていた。それがおかしいことがわかってきた。疑問を呈したのが1859年に発表されたダーウィンの進化論である。原始的な生物が進化して現在の人間になったという考え方である。進化の過程で必ず環境に適した資質を有するものだけが生き残った。

 生命が地球上に現れたのは約36億年前、地球の歴史が46億年前だから、10億年くらい経ってからだ。ダーウィンの主張は受入れられなかった。その6年くらい後、修道僧のメンデルがエンドウ豆の実験で遺伝の仕方を確かめた。そして20世紀に入り、1930年頃までに顕微鏡が非常に進歩して細胞の構造がわかるようになってきた。細胞は核と細胞質の二つに分かれている。研究によって核が遺伝に関係あるのではと思われてきた。しかも染色体がこの中に含まれている。染色体が遺伝に関係することがわかってきた。染色体は普通細胞でみてもわからないが、分裂するときに見える。染色体が二つにわかれる。そして二つの細胞に分離していく。子孫に染色体を移していくことになる。

染色体はまず22組がある。そして23組目は少し違う。Xという染色体がある。これがツインになっている。もう一つはXとYの組み合わせになっている。XXの組み合わせだと女が産まれる。XYだと男が産まれる。性を決めるので性染色体と名付けられている。これが体細胞と組になって、全部で46個の染色体がある。

 さらに染色体をみると、アデニン、ティニン、グアニン、シトシンの4つの物質しか見つからない。これがDNAである。これはどんな生物でも4つの組み合わせでできている。その中でアデニンとティニンは一緒になっている。グアニンとシトシンも一緒になっていることがわかった。それ以上は1953年に英国のワトソンがDNAの構造を発見するまでわからなかった。

 遺伝子は紐状に絡まっている。この紐状を解きほぐしていくと二本必ず対になっている。そして、それが螺旋状になっている。これはサトウとリンでできている。その間に橋が架かっている。これを構成しているのが先程の4つの物質、A.T.G.C.である。

 人間の体には約60兆の細胞がある。DNAの紐の細さは毛髪の約4万分の1の細さである。そして二重螺旋の紐を全部つなぐと一つの細胞に46個の染色体で約2メートルの長さになる。これが遺伝に関係していることが全くわからなかった。人間の体の中でA.T.G.C.がどのような配列をしているかの研究を始めた。これがゲノム計画である。その組み合わせの99%がわかってきた。

 米国、欧州、日本で主に研究が行われたが、その80%を米国が先行してしまった。日本は5%くらいしかできず、非常な遅れをとってしまった。この配列がどのくらいあるか、これを仮に文字にするとエンサイクロペディアで約700冊くらいで非常に細かい。解析は非常に難しいが今ではスーパーコンピューターを使って解析をした。あと僅かしか残っていない。ただし、この配列は遺伝にあまり関係ないことがわかってきた。その一部が関係している。組み合わせが30億くらいあるが、DNAの中で遺伝に関係するのはあまり多くない。最近の研究では一人で3万から4万。これを比べてもネズミとかフグとかに変わりがない。ショウジョウバエは少し少ない。大腸菌などの細菌はだいぶ少ない。3万が遺伝に関係してくることが言われてきた。

 今、この3万が何処にどういう組み合わせであるかが焦点になっている。人間のDNAは他のほ乳類とか魚とどう違うかというと、あまり違いはない。人間に一番近いチンパンジーで2%以内の違いである。その他でも5%くらいしか違わない。幸いに私たちが人間として生まれたのは、チンパンジーと僅か2%しか違わなかったからである。

 では、生命の設計図である遺伝は何に関係してくるか。人間は一つの細胞から精子と卵子が結合して、それから胎児が形成される。その過程で脳ができ、肺ができ、筋肉ができ、足ができる。それをどのように作っていくか、遺伝子が情報をだして、コントロールしている。これをA.G.T.Cの組み合わせで行っている。
人間の体は50%がタンパク質からできている。・・・


 この後も講演は続き、山林先生は遺伝子の世界を含めた、21世紀の医療を語りました。

この内容は2001年4月12日シャトレー・イン横浜で行われた講演を記録したものです。講演者の話の趣旨はなるべく忠実に伝えるように心掛けていますが、文章化するにあたり、その性質上多少異なる場合もあります。尚、記事の掲載に誤りのある場合は講演内容を優先するものとし、お詫び申し上げます。